最終回では、改正促進法における差別禁止・合理的配慮に関する苦情処理・紛争解決援助の仕組みと、2018年4月施行予定の精神障害者の雇用義務化について解説します。
■ 苦情処理・紛争解決援助制度
促進法は、差別や合理的配慮に関連して生じる障害者からの苦情や紛争を解決するための仕組みを定めています。
事業主は、障害者から苦情の申し出を受けたときは、苦情処理機関に処理を委ねる等、自主的解決を図る努力義務を負います。この機関は、事業主を代表する者と当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする、当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関です。職場の実態をよく知る事業主と労働者が話しあうことが、問題解決への近道であるとの考えのもと、促進法はまずは自主的解決を試みることを推奨しています。ただし、自主的解決に向けて努力をしなければ、次の紛争解決援助を利用できないわけではありません。
促進法は、(1)都道府県労働局長による助言・指導・勧告と、(2)都道府県労働局長の指示を受けて行われる紛争調整委員会による調停を用意しています。(1)について、都道府県労働局長は、募集・採用段階を含めた差別禁止および合理的配慮に関する紛争について、当該紛争の当事者または一方からその紛争の解決について援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言・指導・勧告をすることができます。(2)については、募集・採用段階を除く、差別禁止および合理的配慮に関する紛争について、当該紛争の当事者の双方または一方から調停の申請があった場合に、都道府県労働局長は紛争調整委員会に調停を行わせることができます。
これらの制度は、第3者が関与し、当事者が相互に歩み寄った妥協点を模索すること等を通じて紛争を現実的に解決しようとする制度であると説明されます。なお、事業主は、障害者である労働者が(1)や(2)を利用したことを理由として不利益な取り扱いを行うことはできません。
一方、障害者に対する合理的配慮を特別扱いだととらえて不満を持つ従業員がいたり、障害者への合理的配慮の結果、一部の従業員が負担を抱え込むことになり、その者が疲弊する等の問題が生じるおそれもあります。差別禁止や合理的配慮の提供が法律により義務づけられたことを、従業員に広く周知し職場での理解を深めるとともに、合理的配慮を提供する立場にある従業員へのフォローも必要となるでしょう。
■ 精神障害者の雇用義務化と法定雇用率の引き上げ
促進法改正により、18年4月から精神障害者保健福祉手帳の所持者(以下、「精神障害者」)が雇用義務の対象とされることになりました。法定雇用率は、雇用義務の対象となる障害者の人数を基礎に算出されますので、改正により法定雇用率が引き上げられることとなります。
ただし、法定雇用率の急激な引き上げは現場に混乱をもたらすおそれがあることから、法の施行から5年間(23年3月まで)は、障害者数を計算式に単純に当てはめて算出するのではなく、雇用義務の対象障害者の「雇用の状況その他の事情」を勘案したうえで、法定雇用率を定めることとされています。
なお、一部で誤解があるようですが、精神障害者の雇用義務化の意味は、精神障害者を雇い入れることを義務づけられるものではありません。雇用すべき障害者の数が増えることを意味しており、身体障害者や知的障害者の雇い入れにより対応することも可能です。とはいえ、23年のさらなる法定雇用率の引き上げを見据えて、精神障害者の雇用を進めていくことも重要となるでしょう。
その場合、(1)精神障害者には重度認定がないためダブルカウントができないこと(2)短時間労働(週20時間以上30時間未満)が適している場合があり0.5カウントとなること(3)雇用管理上、身体障害者や知的障害者とは違った対応が必要となること――等を踏まえ、計画を進めることが重要であると考えます。
<参考図書>永野仁美・長谷川珠子・富永晃一編著『詳説・障害者雇用促進法―新たな平等社会の実現に向けて』(弘文堂、2016年)