6月23日から24日にかけて21世紀政策研究所の日韓政策対話として韓国を訪問し、東西大学および梨花女子大学においてアメリカ大統領選挙の動向と展望について講演した。本稿では講演の概要を紹介するとともに、後編では韓国での反応などについても触れてみたい。
今年のアメリカ大統領選挙は、極めて異例な展開となっています。
まず、二大政党がドナルド・トランプ氏のように、政治経験皆無の人物を大統領候補に指名することは誠に異例です。
第2に、第2次世界大戦後の歴史で、共和党がトランプ氏のように、孤立主義的外交政策を提唱する人物を公認候補に指名することも異例なことです。
第3に、今回二大政党の大統領候補どちらもが保護主義的であるのも、戦後の歴史では異例です。トランプ氏は強くTPP(環太平洋パートナーシップ)に反対の姿勢を示し、民主党のヒラリー・クリントン氏も反対の立場から再交渉を要求すると発言しています。
第4として、通商問題やイラク戦争への態度などいくつかの点で、共和党候補のトランプ氏の方が「左」に位置するというのも珍しいことです。
第5に、今回は、民主党・共和党双方で、党の主流派が苦戦しました。特に共和党の場合、党の指導部、エスタブリッシュメントがこれ以上ないほど完璧に敗北したといってよいでしょう。
■ トランプ台頭の深層
わが国では「トランプ現象」を、もっぱら格差拡大といった経済的要因に求めようとする論調が目立ちますが、それはやや視野が狭い見方ではないかと思われます。特に共和党での予想外の展開を理解するためには、不法移民問題やイスラム系テロリストに対する不満、共和党指導部に対する怒りなども含めた分析をする必要があるように思います。
共和党支持基盤は圧倒的に白人です。それに対して、民主党は黒人票の約9割、ヒスパニック票のほぼ7割を獲得し、多人種・多民族的です。
過去40年間にわたり、共和党は白人の低所得層に支持を大きく広げてきました。その主たる切り札は、減税、信仰心へのアピール、黒人など少数派への反発の利用でした。21世紀に入ってからは、黒人への反発は、1100万人から1200万人いるといわれる不法移民に対する反感に変わりました。国民の一部は、自分が失業したとき、それは不法移民に職を奪われたせいだと考えるようになりました。
また、一般の白人労働者層の共和党員からすると、共和党の政治家たちは、強硬な不法移民対策を講ずるといいながら、まだ実現できていない、ということになります。あるいは大型減税、人工妊娠中絶禁止など宗教的な公約を共和党の政治家たちは振りかざしながら、直接的なかたちでは白人労働者層の不満にほとんど応えてくれていない、このような感覚が蔓延しています。これがトランプ氏を共和党のなかで押し上げてきました。
■ 選挙戦の現状と今後の展開
それでは、選挙戦の現状はどのようになっているのでしょうか。クリントン氏、トランプ氏両候補の全国での支持率は、多数の世論調査を平均すると4~5%の差でクリントン氏がリードしているようです。
ただし、トランプ氏がリードしている世論調査もあります。また、実際に勝敗を決する州ごとの情勢分析では、まだまだ接戦州が多く予断を許さないようです。特に今回注目される、白人労働者層が多いオハイオ・ペンシルベニア両州ではかなりの接戦となっています。
7月後半に共和党、民主党の順に全国党大会を開催します。選挙戦の基本的な情勢がわかるのは、この2つの全国党大会終了後2週間程度経ってからです。党大会を行うと通常、その党の候補者の支持率が大きく上がります。それが落ち着いたところが、選挙戦の基本的な情勢といえます。
【21世紀政策研究所】