これまで働きながら介護する人の介護の実態や企業による仕事と介護の両立支援策についてご紹介してきました。仕事と介護の両立のためには、働きながら介護をする人が介護サービス等をしっかりと活用し、職場に相談したうえで柔軟な働き方や休暇取得をすることが重要です。では、仕事や介護の負担を大きく軽減すれば介護離職を防ぐことができるのでしょうか。
最終回では、離職を防ぐために必要な両立支援の考え方についてお話します。
◆ 大切な「両立実感」
働きながら介護をする人は、傍からみれば「仕事と介護の両立」をしているといえますが、自身に両立できている実感があるかというと、人によって差があります。正社員として働きながら介護をしている人1000人を対象に実施した調査では、「うまく両立できている」と回答した人が14.8%、「まあまあ両立できている」が51.3%、「わからない」が13.1%、「あまり両立できていない」が16.1%、「まったく両立できていない」が4.7%という結果となりました。
「あまり」と「まったく」を合わせると約2割の人が、「両立できていない」と感じています。その理由として「親の介護が充分できていない」、次いで「家族や親族に負担をかけている」が挙げられるなど(図表参照)、自分が担うべき介護役割が果たせていない、と感じているために両立実感が持てていないとみられます。一方、「やりたい仕事ができていない」「仕事で周囲に負担をかけている」というように、自分が担うべき仕事上の役割が果たせていないために両立実感を持てない人もいます。
働きながら介護をしていても、両立実感が持てなければ、いずれ介護離職となる危険性があります。離職を防ぐうえで大事なことは、介護も仕事も、ただ本人の負担を大幅に軽減するということではなく、本人が担うべきと考える役割を果たせるかたちで両立できるよう支援することなのです。
◆ 仕事と介護の両立のかたち
近年、出産のために離職する正社員女性はかなり減ってきました。子が1歳くらいまで休職を取り、復帰後は保育所に子どもを預けながら短時間勤務や所定外労働免除等を活用して働くことが選択できるようになったためです。
こうした「両立のかたち」なら、多くの女性が子育ても仕事も自分の役割を果たしていると思える、つまりは両立実感が得られるということだと思います。「育休を子が3歳まで取れる」「深夜まで保育所で預かってくれる」といった施策では、多くの女性の両立実感は得られなかったのではないでしょうか。また、当事者の女性たちだけでなく、「子が1歳から保育所に預けてもよい」「短時間勤務でも正社員として働ける」という考え方を社会や職場が受け入れるようになったことも影響していると考えられます。
同様に、介護についても、本人が仕事も介護も一定の役割を果たせるような「介護サービス利用」や「働き方」の組み合わせをみつけることが必要です。これまでの調査からは、要介護度が異なっても、家族介護者の働く時間数はあまり変わらず、利用する介護サービスが異なることがわかっています。多くの人が受け入れられる「両立のかたち」は、子育てに似て、「フルタイムに近い時間働き、その間安心して任せられる介護サービス等の介護体制をつくる」ということなのかもしれません。
ただ、介護については、「介護サービスを利用せずに子が介護すべき」という社会通念がまだ根強く残っていますし、「家族の都合で休みを取るべきではない」という職場風土が、特に介護に直面する中高年層に残っています。介護離職を防ぐためには、個々の企業の両立支援策だけでなく、社会全体で、家族による介護の担い方や働き方について、多様な選択を認めていくことが必要なのです。