経団連は4月22日、東京・大手町の経団連会館で雇用政策委員会国際労働部会(得丸洋部会長)を開催した。ILO(国際労働機関)本部多国籍企業局の荒井由希子上級専門家から、グローバルサプライチェーンと多国籍企業の動向について説明を聞いた。説明の概要は次のとおり。
■ 人権問題への関心の高まり
近年、人権侵害への関心の高まりを受けて、世界では、人権に関する行動規範を策定し、デュー・ディリジェンス(Due Diligence、戦略策定、リスク管理、監査・報告体制の整備)を導入する企業が増えている。こうした動きに対応して、ILOもヘルプデスクを設置し、各社からの相談を日本語でも受け付けている。
しかし、企業におけるデュー・ディリジェンスの推進が労働環境の改善につながっていないとの声も多く、労使対話を通じた相互理解の推進が求められている。
CSRについては、これまで企業の自主的な取り組みが主体であったが、企業のコンプライアンス上の取り組みに加えて、効果的な法制度の執行や労働監督など政府の役割も重要となっている。また、企業のCSR自体も「責任」の側面が強まっている。
■ ビジネスと人権に関する世界の動向
昨年、ドイツで開催されたG7では、グローバルサプライチェーンにおけるディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)が議題となり、今後もG7やG20において重要議題として取り上げられることが予想される。欧州では貿易政策において、CSRが取り上げられるとともに、今年半ばにEU次期CSR行動計画が発効予定であり、CSRを強化する方向にある。TPP(環太平洋パートナーシップ)においても、投資条項に「労働」が入り、労働者の権利保護がうたわれている。
また近年、多数の参加者、関係者が関与するメガスポーツ大会における人権の保護が注目されている。日本も2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、スポンサー企業であっても、人権保護が十分でないイベントに結果的に加担しているといわれないよう十分な注意が必要となる。
■ ILOの取り組み
ILOにおいても、今年の総会でグローバルサプライチェーンが議題として取り上げられ、雇用・労働の側面から初めて議論・分析を行う。また、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」や「ビジネスと人権に関する指導原則」等を踏まえて、17年に「ILO多国籍企業宣言」を改訂する。また、ベトナムのエレクトロニクス産業における労働CSRと競争力強化に関するプロジェクトなど、調査研究も進めている。
■ 企業に対する期待
こうした状況のなか、企業においても、CSR・サプライチェーンマネジメントを経営のコアに位置づけ、経営のパフォーマンスの向上へとつなげていく必要がある。日本企業においても、好事例の共有のため、各社の取り組みを積極的に発信してほしい。
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荒井氏の説明に続き、第105回ILO総会議題への対応について審議が行われ、了承された。
【国際協力本部】