近年、年間約10万人が介護離職をしているといわれ、今後さらに高齢者人口が増加するなか、介護を必要とする家族を抱える就労者の増加が懸念されています。これまで、仕事と子育ての両立を中心にワーク・ライフ・バランスの取り組みを進めてきた企業でも、仕事と介護の両立支援への関心が高まっています。では、社員の介護離職を防ぐために、企業には、どのような対策が求められるのでしょうか。
今回はまず、今年3月に成立した改正育児・介護休業法で、介護に関して、どのような法改正が行われているかをご紹介します。
◆ 育介法改正の概要
主な法改正のポイントは5つです。1つ目が、「介護休業(93日)」の分割取得です。取得期間は据え置かれましたが、3回を上限に分割取得が可能となりました。2つ目が「休業給付の給付率引き上げ」です。賃金の40%から育児休業並みの67%に引き上げられました。3つ目に「介護休暇(年5日)」の取得単位の柔軟化です。半日単位の取得が可能となりました。4つ目は、「所定労働時間の短縮措置等(選択的措置義務)」の介護休業期間からの独立です。介護休業とは別に、利用開始から3年の間で2回以上の利用が可能となりました。5つ目は、「所定外労働の免除」の新設です。介護終了までの期間について、請求することができるようになりました。さらに、省令対応で、介護休業等の対象家族の範囲が、同居・扶養していない祖父母、兄弟姉妹、孫にも拡大します。
◆ 改正の目的・論点
改正点で、最も注目されるのは、「介護休業」でしょう。分割取得に異論はないでしょうが、期間を長期化させるべきだという意見もあります。図表にみるように、介護休業制度については、従業員1001人以上の企業では、すでに半数以上が「法定を上回る内容」を整備しています。「法定を上回る内容」というのは、ほとんどが「取得期間」の延長です。しかし、介護休業の期間延長が介護離職防止につながるのかというと必ずしもそうとはいえません。介護に直面した場合、「働きながら介護をするよりも長期の休業を取ったほうが会社に迷惑をかけないのではないか」と考え、休業して自ら介護を抱え込んでしまうことで復職が困難になる可能性もあります。
今回の改正では、介護休業は「介護の体制構築のための休業」であるという利用目的も示されました。長期休業で介護を自ら抱え込むのではなく、数週間単位で介護休業を利用して介護保険の認定やサービス利用の手続きなどを行い、その後は介護サービスを利用しながら、1日や半日単位の休暇取得、所定外労働の免除・短時間勤務・フレックス等柔軟な働き方によって仕事と介護の両立を可能とする。それが、今回の法改正の目的といえるのではないでしょうか。
- 執筆者プロフィール
矢島洋子(やじま ようこ) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング共生社会室室長・主席研究員、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。2004~07年内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。少子高齢化対策、男女共同参画の視点から、ワーク・ライフ・バランスや女性活躍推進関連の調査・研究・コンサルティングに取り組んでいる。