経団連(榊原定征会長)は19日、提言「新たな経済社会の実現に向けて」を公表した。同提言では、IoT(Internet of Things)、AI(人工知能)、ロボットといった革新技術の進展や海外の動向を念頭に、わが国において経済社会全体の革新を実現するために、政府や産業界が取り組むべきことを取りまとめた。
■ 現状認識
ICTの急速な進化を背景としたサイバー空間と現実空間の融合、いわゆる「サイバー・フィジカルシステム」が産業・社会構造を劇的に変化させるといわれている。同システムによりデータを集め、ビッグデータ化し、AIによって分析し、ロボットで実行するという循環を回すことが新たな価値を生む。
すでに諸外国において企業や国主導でさまざまな取り組みが進められているなか、わが国では昨年からいくつかの取り組みが開始され、第5期科学技術基本計画では「Society 5.0」(図表参照)が掲げられた。Society 5.0は経済社会全体の革新により「産業競争力の強化」と「人中心の社会の構築」を目指すものであり、他国の戦略よりスコープが広い。
■ 目指すべき新たな経済社会
目指すべき新たな経済社会はこれまで以上に個人が中心となり、企業はデジタル化を通じた新たな価値の提供を行い、社会課題の解決による豊かで活力ある未来が実現するものである。その実現に向けては、わが国の課題を起点とすること、わが国産業の強みを活かすこと、さらにはこれまでの強みを維持・強化しつつ新しい強みを創造することが重要な視点となる。
■ 実現に向けた課題
実現に向けては、5つの壁の突破が不可欠である。1つ目は「省庁の壁」である。Society 5.0の実現に向け、総理のリーダーシップのもと国家戦略を策定し、府省一体で推進すべきである。
2つ目は「法制度の壁」である。国際競争力や生活の利便性に直結するデータの利活用は極めて重要であり、データ流通の促進に関するルール整備が不可欠である。このほか、規制や制度の改革、行政の電子化の推進、知財法制のあり方の見直しも必要である。
3つ目は「技術の壁」である。サイバーセキュリティ等の技術開発や政府研究開発投資目標対GDP比1%・総額26兆円の達成、大学改革や民間の研究開発投資の促進等環境整備が必要である。
4つ目は「人材の壁」である。「主体的に新たな価値を創造できる人材」を育成するため、初等・中等段階からの教育改革が必要である。
5つ目は「社会受容の壁」である。革新技術の社会実装に向け、国民、企業等のすべてのステークホルダーの間で、社会的なコンセンサスを形成するとともに、人文・社会科学の知見を活かした倫理、法、社会的影響等の検討が必要である。
■ 産業界の取り組み
産業界にも「自らの壁」があり、オープンイノベーションや構造改革の推進によって、壁を打ち破る必要がある。とりわけ、企業間で協力ができる「協調領域」の明確化と拡大によって、個別企業の競争を高次の部分に集中させることが重要である。このほか、産学官連携を通じた本格的な共同研究、ベンチャー企業や中堅・中小企業を含めたエコシステムの構築、戦略的な国際標準化の推進、女性の活躍等の人材戦略の推進、さらには、自らの構造改革が必要である。
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経団連では、今回の提言を契機として、個別の課題について引き続き検討を深め、発信していく。
※提言の詳細は経団連ウェブサイトに掲載
【産業技術本部】