21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)では、日韓両国が抱える政策課題をめぐって、さまざまな分野の研究主幹と韓国の政府、産業界、研究者等との間で政策対話を行っている。
今年2月末、その第7回対話で韓国を訪問し、全国経済人連合会(全経連)、韓国エネルギー経済研究所、国立外交院等とエネルギー環境問題について意見交換をした有馬純研究主幹(東京大学教授)から、韓国の温暖化対策をテーマに寄稿いただいた。
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韓国はエネルギー起源CO2排出量でみると、世界第7位の排出国であり、2000―12年の排出量の伸びはOECD全体で3.7%減であるにもかかわらず、35%増となっている(1990年比でみるとOECDが9%増、韓国は159%増)。1人当たりの排出量は11.9トンとすでに日本(9.6トン)を上回っている。
こうしたなかで韓国は昨年12月のCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)に先立って、「2030年にBAU(Business As Usual)比で37%削減」という約束草案を提出した。30年時点での想定BAU水準に基づき、14年比の削減率を計算すると22.7%減となる(なお、直近の報道によれば、韓国は09年に表明した「2020年にBAU比30%減」という目標を取り下げるということだ。グリーン成長法を改正し、20年目標を30年目標で置き換えるということだが、背景には多くの石炭火力発電所新設プロジェクトがあり、20年目標の達成が困難になっている事情があるという)。
全経連によれば、韓国では製造業比率が高く、すでにエネルギー効率が高い製造業では削減余地が限られているため、韓国にとって極めてハードルの高い目標だということだ。約束草案とBAUを比較したブルームバーグの分析によれば、韓国マイナス28%、カナダマイナス11%、米国マイナス8%、日本マイナス3%、EUプラス5%、中国プラス9%、インドプラス12%だという。そのためか、韓国の「BAU比37%減」のうち、11%は海外クレジットで充当することとなっており、国内の真水の削減・吸収量を積み上げた日本の目標とは性格が異なる。
韓国政府はBAU比14―31%減の4つのオプションを検討していたが、BAU比37%減はそのどれよりも高く、約束草案提出時、全経連は「国際世論に迎合し、国内経済への負担や影響を考慮していない」と強い懸念を表明している。当方からも日本の約束草案のハードルの高さ、限界削減費用の高さ等を説明した。
地球温暖化交渉における韓国の立ち位置は特異である。気候変動枠組み条約が策定された92年当時、OECDに加盟していなかった韓国は非附属書Ⅰ国となった。このため、附属書Ⅰ国のみに義務を課した97年の京都議定書のもとで、その前年にOECD加盟国となった韓国は義務を免れることとなった。すでに日本の強力な競争相手になっていた韓国が、92年当時OECD加盟国でなかったというだけの理由で、削減義務を負っていないことに割り切れなさを感じていたのは筆者のみならず、日本の産業界全体の思いであったろう。附属書Ⅰ国が現状レベルからの絶対量削減目標を表明しているなかで、韓国の目標が20年、30年ともにBAU比というのも附属書Ⅰ国とは違うというこだわりだと思われる。
しかし、こういった特別扱いはもう終わりになる。パリ協定では「附属書Ⅰ国、非附属書Ⅰ国」という表現は一切使われておらず、「先進国、発展途上国」という表現に差し替えられ、「先進国はエコノミーワイドの絶対量削減目標を採用することで先導的役割を果たす」と規定されている。パリ協定上、先進国、発展途上国は定義づけられていないが、韓国がよもや自らを発展途上国と位置づけることはないだろう。したがって96年のOECD加盟から20年近くを経て、韓国は温暖化枠組みの世界では、ようやく先進国の仲間入りをすることとなる。
【21世紀政策研究所】