昨今、減少傾向にある「理工系人材」の育成を加速することを目指し、経団連と日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)は1月19日、東京・大手町の経団連会館で約230名の参加者を得て、理工系人材育成へのオンライン教育の活用を議論する共同シンポジウムを開催した。
理工系人材の育成をめぐっては、今年5月から、文部科学省と経済産業省の共管で、経済団体・大学等団体・その他関係省庁の参画により「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」(共同座長=内山田竹志経団連副会長)が開催されている。そのなかで、大学等で学んだ理工系科目と企業において活用される理工系の知識とでは、その分野や内容のミスマッチが課題として挙げられ、この解決に向けて、大学での基礎的な学びに加え、技術・社会の変化に応じ、誰もが自由に学び直しをできる環境の重要性が指摘されている。他方、「社会人の学び直し」は時間・コスト等の制約から非常にハードルが高く、そのために昨今、オープンな教育手段である「大規模公開オンライン講座(MOOC)」の活用が注目されている。
■ 理工系人材育成に向けた政府・産業界の取り組み
シンポジウムでは、政府が2015年3月にまとめた「理工系人材育成戦略」について、文部科学省専門教育課の関百合子企画官が、続いて、「理工系人材育成における大学と産業界のニーズのギャップ」をテーマに、経済産業省大学連携推進室の宮本岩男室長が講演した。宮本氏からは、機械・電気・材料などの業種で、大学で学生が学んだ専門分野と、入社後に必要性を感じた分野にミスマッチがあり、その解決が急がれることが示された。
また、経団連の須藤亮未来産業・技術委員会企画部会長が、産業界における理工系人材育成に関する取り組みについて講演。須藤部会長からは、多くの企業が入社後に理工系の基礎科目に関する「学び直し」を行っているという現状や、その解決に向けたオンライン教育への期待が高いことなどが紹介された。
■ 海外におけるオンライン教育の動向
続いて理工系人材育成に関するオンライン教育の世界的動向について、マサチューセッツ工科大学の宮川繁教授が講演を行った。宮川氏は米国を中心に、基礎科目はもちろんAI(人工知能)などの最先端の技術についてもオンライン学習が広がっていること、世界最大のオンライン学習プラットフォームでは2350のコースで2000万人以上が学んでいることなどに触れ、もはや理工系人材育成において必要不可欠な存在になっていると強調した。
また、オンライン学習での講義を受けることで大学の単位を取得でき、その単位を元に大学を卒業することができるという新たな取り組みを紹介し、理工系人材の育成加速のために、日本でも同様の仕組みを検討すべきと提案した。
■ わが国のオンライン教育の状況
続いてJMOOC常務理事・事務局長の福原美三氏、DSS代表の辻太一朗氏が、「基礎科目の新たな学び直し手法としてのオンライン学習の活用及び履修履歴のデジタル化」をテーマに講演し、日本でもオンライン学習が増加している状況や、JMOOC自身が理工系基礎科目の学習促進に向けた講座展開を進めていることなどを紹介した。
最後に、福原氏をモデレーターに、これら講演者にFUJITSUユニバーシティ会長兼社長の近間輝美氏を加えて行われたパネルディスカッションでは、さまざまな分野の学びを行うための環境の整備や、フレキシビリティのある人材の育成のためには、MOOCのようなオンライン学習が重要であり、産学官がその普及を進めるということで意見が一致した。
【産業技術本部】