21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)は15日、昨年12月に国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)でパリ協定が採択されたことを受け、東京・大手町の経団連会館で第117回シンポジウム「COP21を踏まえた戦略を考える」を開催した。COP21をめぐるシンポジウム開催は、昨年11月に続き2回目。
パリ協定では、途上国も含めたすべての国が温室効果ガスの削減目標を提出し、その進捗状況を国際的に検証する、ボトムアップ型のプレッジ&レビュー方式が導入された。同研究所ではかねてより澤昭裕研究主幹、有馬純研究主幹、および竹内純子研究副主幹を中心にCOPへの対応を研究しており、ボトムアップ方式等をはじめとする対応策を独自に提言するほか、経団連と連携して産業界の考え方を政府・与党、メディア等に働きかけてきた経緯がある。今後、経済界としてもパリ協定を踏まえて「低炭素社会実行計画」の着実な推進に加え、革新的技術開発や技術の国際移転の推進などを通じた対策に取り組むとともに、実効性のあるフレームワークの構築に向けた働きかけを行う必要がある。
そこで、シンポジウムではCOP21に参加した有馬氏、竹内氏、手塚宏之経団連環境安全委員会国際環境戦略ワーキンググループ座長、秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構グループリーダー・主席研究員、また政府の立場から交渉に携わった、吉田綾・外務省国際協力局気候変動交渉官、奈須野太・経済産業省産業技術環境局環境政策課長の参加を得て、パリ協定がわが国経済界に及ぼす影響等について議論を行った。
冒頭、基調講演でCOP21を受けて作成した緊急報告書をもとに、有馬氏がCOP21の成功は議長国フランスの外交手腕によるところが大きいと指摘。さらに、パリ協定には気温上昇を1.5℃未満に抑えるという非現実的な目標が盛り込まれるといった問題もあるが、すべての国が削減目標を提出し、その実現に努力する現実的なボトムアップのプレッジ&レビュー方式が導入されたことは評価できるとした。そのうえで、日本は今後プレッジ&レビューの制度設計・実施面での貢献や国内のイノベーション環境の整備に取り組むと同時に、各国の環境整備や国際連携のあり方についての議論をリードすべきであると述べた。
続いて吉田氏、秋元氏、奈須野氏から、それぞれ国際交渉の経緯と主要論点、各国の約束草案の野心度の比較と世界排出量見通し、今後の国内対策に関し説明があった。
パネルディスカッションでは、竹内氏をモデレーターに、パリ協定を踏まえた今後の国際交渉の行方や日本への影響について議論が行われた。このうち国際枠組みについては、今後ルールを詰めることになるが、透明性が確保されシンプルなルールを作成し、新興国を取り込んでいくことが重要との見解が示された。
また、排出量取引制度について、理論上は素晴らしいが、現実社会ではほとんど効果がなく、まずは各国で大きく幅のある限界削減費用をなだらかにしなければいけないとの指摘があった。
国内対策については政府側から、日本の目標を達成するためには電力セクターの排出削減と、省エネの徹底が課題となるので、産業界は自主行動計画に基づき省エネを確実なものとするとともに、電力セクターもしっかりと目標を達成してほしいとの要望があった。
これに対して、産業界側からはイノベーションのためには、良好な経済成長のなかで開発原資および普及原資を確保することが重要であり、また、同じような技術を同時並行に開発するのではなく、さまざまな技術を組み合わせてイノベーションが起こるような環境づくりに力を入れる必要があるとの指摘があった。さらに、日本はCO2排出量の抑制に技術面で貢献すべきであり、そのためにはJCM(二国間クレジット制度)が重要になるとの考えが示された。
同研究所としては今後、パリ協定のもとでの国内対策の整備に向けて検討を進める予定である。
【21世紀政策研究所】