経団連(榊原定征会長)は19日、春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンスを示す「2016年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」を公表した。記者会見で、委員長を務める工藤泰三副会長は冒頭、2016年の副題を「人口減少下での経済の好循環と企業の持続的成長の実現」とした理由について、「人口減少という中長期的な問題を取り上げ、それに対応するためにも、経済の好循環という喫緊の重要課題に取り組み、企業の持続的な成長を実現していくという強い決意を表している」と説明した。そのうえで、今次労使交渉では、そうした「社会的要請」を重視すべき考慮要素としつつ、収益の拡大した企業において、昨年を上回る年収ベースの賃金引き上げを期待して、企業経営者へ前向きで踏み込んだ検討を呼びかけていることを強調した。
報告書の主なポイントは次のとおり。
■ 多様な人材の活躍と働き方改革によるイノベーションの創出(第1章)
企業の成長のためには労働力の「量」と「質」の両面からの維持・確保に加え、性別に関係なく働きやすい職場環境の整備が必要である。そこで、女性や若年者、高齢者、障害者、外国人材といった「多様な人材の活躍推進」や、「働き方・休み方改革の推進」「健康経営のさらなる推進」「仕事と介護の両立支援」の4項目を掲げ、現状と課題、企業に求められる対応や取り組みなどを記述した。
■ 雇用・労働における政策的な課題(第2章)
働き方・休み方改革の推進に役立つ労働基準法等改正案や改正労働者派遣法への対応といった法改正事項のほか、「非正規労働者の現状と課題」や「採用選考活動のあり方」などの課題も取り上げ、経団連の考え方や人事・労務管理上の留意点などを整理した。
■ 2016年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢(第3章)
春季労使交渉・協議を迎えるにあたり、交渉実施のベースとなる良好な労使関係の深化に向けた「労使パートナーシップ対話」促進の重要性や、大幅な賃金引き上げが実現した昨年の春季労使交渉・協議の総括のほか、「労働生産性の現状と向上への対応」や「総額人件費の適切な管理」「企業経営のグローバル化と賃金決定」など、理解を深めておくべき事項をまとめた。
連合「2016春季生活闘争方針」への見解
連合の「2%程度を基準」とする事実上のベースアップ要求を踏まえ、企業別労働組合が要求を提示する際、賃金決定におけるさまざまな考慮要素に照らして具体的な根拠を示す必要があると指摘した。また、連合が中小組合に対して、大手との格差是正を理由に総額1万500円以上を目安とする高い要求を掲げるよう求めていることについては、自社の支払能力に基づかない要求は建設的な労使交渉・協議の妨げになるだけでなく、自社の労使関係に悪影響を与えるとの懸念を表明した。
自社の実情にかなった多様な賃金引き上げに向けて―経営側の基本姿勢
賃金は、さまざまな考慮要素を踏まえ、適切な総額人件費管理のもと、自社の支払能力に基づき企業が決定するとの原則をあらためて明確にしたうえで、今次労使交渉・協議で重視すべき考慮要素として「経済の好循環を回すという社会的要請」があることを強調。各社の収益に見合った積極的な対応を図ることが求められるとして、収益が拡大した企業に対して、設備投資や研究開発投資、雇用の拡大などとあわせ、15年を上回る「年収ベースの賃金引き上げ」に向けた前向きで踏み込んだ検討を呼びかけた。
具体的な方法として、定期昇給の実施はもとより、月例賃金の一律的な水準引き上げ(全体的ベースアップ)に限られず、若年層や子育て世代への重点配分(重点的ベースアップ)、賞与・一時金の増額、各種手当の見直しなど、さまざまな方策を例示列挙した。そのうえで、企業の置かれている経営環境や業績の状況は各社各様であることから、自社の実情にかなった方法を多様な選択肢のなかから見いだしていくことが求められると結んでいる。
【労働政策本部】