近年の産業施設における火災・爆発事故を踏まえ、政府では経済産業省、総務省消防庁、厚生労働省が関係省庁連絡会議を設置、民間でも関係団体が行動計画を策定するなど、産業保安の確保に努めてきた。しかしながら、依然として事故が発生している状況にある。
そこで経団連は11月20日、東京・大手町の経団連会館で環境安全委員会安全部会(武藤潤部会長)を開催し、経済産業省商務情報政策局商務流通保安グループの三木健審議官および東京大学田村昌三名誉教授から、最近の産業保安を取り巻く状況や産業事故の要因分析、これらを踏まえた対応策などについて聞くとともに意見交換を行った。
概要は次のとおり。
■ 経済産業省「産業保安・製品安全のスマート化の取り組みについて」
三木審議官講演
産業事故の件数や死傷者数は、長期的にみれば各分野とも減少傾向にあるものの、近年、大規模プラントにおける産業事故が連続して発生している。また、水素ステーションやガス容器の材料変更といった技術の進歩や、燃料電池自動車の国連規則発効といった市場・国際的潮流の変化等、産業保安を取り巻く状況は常に変化している。
これらの状況を踏まえ、経済産業省は、保安水準の維持・向上を図りながら、技術の進歩や市場・国際的潮流の変化に迅速・柔軟かつ効果的・効率的に対応するため、産業保安規制を「賢い規制」へと進化させていくこと(スマート化)を、今年3月の産業構造審議会保安分科会で打ち出した。具体的な方向性としては、(1)自主保安の高度化の促進(2)新技術や新市場の出現・普及への円滑な対応(3)規制にかかるコストの最適化――の3点が挙げられている。
自主保安の高度化に関しては、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、人工知能等にかかる具体的な新技術等を導入する事業者に対して、ポジティブ・インセンティブを導入・強化し、規制を差異化すること等が検討されている。
<質疑応答>
経団連側からは、「ビッグデータ等を利活用した新技術について、各業界において共通で使える技術や共通ルールがあると良い」「こうしたインフラをつくるに当たっては、セキュリティ問題の考慮が必要である」といった発言が出された。
三木審議官からは、「技術のスマート化に向けた主要施策については、保安分科会の下の各小委員会などの場で具体的に検討していく」との発言があった。
■ 「最近の産業安全問題と現場力の再構築に向けた課題」
田村名誉教授講演
最近の産業安全問題の原因として、産業環境の変化(高度化、多様化、国際化、局限化)に伴う要因が指摘されている。具体的には(1)プロセスの潜在危険の増大(2)作業の分化・専門化・コンピュータ化に伴う全体像・内容不明による異常変化への対応力低下(3)合理化・リストラ、世代交代によるベテランの不在や、プラント建設の海外展開に伴う知識取得の機会の減少――などである。
また、これら直接的な要因のほかに、企業の体質、運営、組織、管理、教育、安全文化などの間接的な要因も存在する。
今後、産業安全を向上するためには、「現場の保安力」を強化する必要がある。短期的な対応策として、安全活動や事故情報の体系化、それらの共有化と活用などの促進が必要である。業界団体などが発行するベストプラクティス集や科学技術振興機構が作成した失敗知識データベースの活用・拡充、さらにその体系的知識の活用が期待される。
また、長期的な対応策として、体系的安全教育プログラムの構築と実践も必要である。今後、体系的プログラムに基づき、家庭・学校・企業・社会などにおいて、適切な安全教育が実施されることが望まれる。
【環境本部】