21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)の青山慶二研究主幹(早稲田大学大学院教授)が10月19日、全国経済人連合会(全経連)からの招聘に応じて訪韓した。青山研究主幹は同日、全経連が韓国政府の協力を得て開催した国際租税セミナーにおいて、「税源浸食と利益移転(BEPS=Base Erosion Profit Shifting)」をテーマに、韓国企業の税務担当者等を対象として、講演を行った。韓国では、BEPSをめぐる問題に関心が高く、今回のセミナーでは、200名を超える参加があった。
■ BEPSをめぐる動向
BEPSとは、税源浸食と利益移転を意味し、グローバル企業が税制の隙間や抜け穴を利用した節税対策により税負担を軽減するとともに、実際に経済活動が行われている場所での課税から免れていることが問題とされている。現在、OECDを中心にBEPSに対応し、国際的な課税ルールの調和を図る方向で制度改正が進められており、10月5日には「OECD最終報告書」が公表されたところである。今後、同報告書の方針に則って、各国政府が国内関連法制度の整備を進めることとなっている。この方向で法改正がなされた場合、企業の事務負担や課税の増加につながることが懸念されている。
こうしたことから、21世紀政策研究所では、この3年間、経団連と緊密な連携を取りながら、青山研究主幹を中心に国際租税研究会で精力的にBEPSをめぐる問題の検討を行ってきた。また、OECDと経団連、21世紀政策研究所の合同で今年2月には、OECD租税政策・税務行政センターのパスカル・サンタマン局長を招聘して意見交換を行った。昨年5月、今年3月にパリで開催されたOECD公聴会にも経団連と21世紀政策研究所の代表が出席し、OECDに対する民間経済界の公式な諮問機関であるBIAC(経済産業諮問委員会)税制・財政委員会のウィリアム・モリス委員長と連携し、日本経済界の考えを「OECD最終報告書」に反映させるなどの働きかけを繰り返し行ってきたという経緯がある。今回の韓国からの招聘は21世紀政策研究所の研究成果とOECDとの交渉の経験を参考に今後の対応を検討したいという韓国経済界の強い要望によるものである。
■ BEPSをめぐる問題への日本経済界の対応を説明
セミナーでは、日本の財務省に相当する韓国企画財政部の幹部が、韓国政府として、国税庁および民間の専門家による研究会を発足させて、2016年度からBEPSに対応した具体的措置を順次導入する旨述べた。
これを受けて青山研究主幹は、日本経済界の対応を包括的に説明し、「OECD最終報告書」で示された15の行動計画のうち、日本企業に最も大きな影響を及ぼすものの1つと考えられる「移転価格文書化」(行動計画13)などを事例として取り上げた。「移転価格文書化」に関しては、グローバルに活動する企業が各国ごとの所得、納税額の配分等が記載された文書(「国別報告書」)の親会社所在地国への提出が義務づけられる。
OECDの当初案では、関係するすべての国の税務当局に現地子会社を通じて提出するよう義務づけられるというもので、日本経済界としては、子会社を通じた情報漏えいや各国税務当局による情報の濫用が懸念されることから、提出先を親会社所在地国の税務当局に限定すべきと提言し、「OECD最終報告書」に反映されたことを紹介した。また、今後も各国ごとのBEPS関連法制度の整備、実施のプロセスについてもしっかりとモニタリングをしていくことが重要である旨を指摘した。
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BEPSをめぐる問題は、企業経営に重大な影響を及ぼす可能性があることに鑑み、アジアのOECD加盟国である日本と韓国の経済界が協力して、よりよい制度設計を目指して、OECDに働きかけを行っていく必要がある。これにより、国際社会における日韓の新たな協力関係の一分野となることが期待される。
【21世紀政策研究所】