21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)は15日、大阪市内で第115回シンポジウム「日本型オープンイノベーションの展開」(座長=三浦惺所長)を開催した。同研究所ではかねてより、元橋一之東京大学大学院教授を研究主幹として、日本型オープンイノベーションに関する研究を行っている。今回のシンポジウムは、その研究成果を関西地域の会員に報告するとともに懇談することを目的としたもので、元橋研究主幹がモデレータを務め、中野節・大阪大学産学連携本部副本部長、松本毅・大阪ガス技術戦略部オープンイノベーション室長、河原克己・ダイキン工業テクノロジー・イノベーションセンター設立準備室長、西尾好司・21世紀政策研究所研究副主幹/富士通総研経済研究所主任研究員が登壇した。
また、関西地域の会員代表者をはじめ約160名が参加した。
■ 研究報告「日本型オープンイノベーションの研究」
冒頭行われた元橋研究主幹の研究報告によると、近年、技術が進歩・複雑化し、また不確実性も増大するなか、国際競争の激化や新興国市場も含めた消費者ニーズの多様化により、日本の大企業では、各事業分野における専業化が進んでいるほか、開発コストも増大している。こうした状況のもと自社の研究開発組織だけで、すべての事業分野や技術課題に対処することが難しくなっているのが現実で、これがオープンイノベーションを志向する契機となっているという。さらに、元橋研究主幹は、現状を従来の「モノづくり」から、サイエンスに裏づけられた「コトづくり」が求められる時代に突入していると説明する。そのうえで、企業が、科学的知見を取り入れる場所として大学や公的研究機関を利用したり、業界の枠や国境を超えて共存共栄していく「ビジネスエコシステム」構築のために顧客らと協業する場として、オープンイノベーションが必要であるとしている。
次に、今回元橋研究主幹らが行った欧米型オープンイノベーションとの比較や企業へのアンケート、ケーススタディによれば、日本企業では、トップのコミットメントが若干弱いにもかかわらず、企業間などの関係依存性の強さをもとにしたオープンイノベーションが、これまでも行われてきたことが明らかになったと述べた。
そのうえで、全社的な戦略・体制を整備し、これまで得意としてきた関係依存性の強さをもとにした深いオープンイノベーションだけでなく、欧米型の幅のあるオープンイノベーションにも取り組むことが必要だと訴えた。
■ パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、中野氏から、“Industry on Campus”の名のもとに進められている大阪大学の産学連携への取り組みが紹介された。企業の開発担当者が大学に籍をおいて運営する「協働研究所システム」が構築され、研究開発や事業化に加え、企業、大学の双方の人材育成、教育、交流に効果を上げているとの説明があった。
また、松本氏は、オープンイノベーションでは自社の担当者だけで必要な情報を得るのは難しく、相手企業の担当者、地域の代表者、オープンイノベーションの支援を専門とする企業などと、ネットワークを構築しながら進めてきたと説明した。さらに、今後は社内外のイノベーション・エージェントの育成、活用が必要との認識を示した。
一方河原氏は、オープンイノベーションをイノベーション創出手段の1つとしてとらえ、事業課題解決型から新分野創造型イノベーションへと進めるためには、イノベーションリーダーも組織もそれに適したかたちにする必要があると指摘。その実現のため、外部の企業や公的研究機関と自社の研究開発組織を一体に運営するセンターの設立に取り組んでいることを説明した。
これを受けて西尾氏は、オープンイノベーションへの対応はトップの判断や担当者だけではなく、現場の開発担当者にも、適した人材、活動が求められるとした。また、大学については、理工学系だけではなく、人文社会科学系の知見も含め、最大限活用するべきだと述べた。
21世紀政策研究所では今後も、こうした会合を開催し、会員に対する研究成果の報告を行っていく予定である。
【21世紀政策研究所】