経団連(榊原定征会長)は7月23、24の両日、長野県軽井沢町のホテルで「夏季フォーラム2015」(議長=荻田伍副会長)を開催した(前号既報)。今号では第1セッション、第3セッションおよび第4セッションの概要を紹介する。
第1セッションでは、岩田一政日本経済研究センター代表理事・理事長から、「人口回復に向けて」をテーマに講演を聞くとともに意見交換を行った。講演の主なポイントは次のとおり。
■ 出生率引き上げには13兆円の追加財源
わが国の人口は、現状を放置すれば今後急速に減少することになり、潜在成長率の大幅な低下が懸念される。潜在成長率は、労働投入と資本蓄積、全要素生産性の3つの要素の伸び率から成ると考えられている。わが国の人口減少は急速な高齢化と並行して進展するため、労働投入の減少だけでなく、貯蓄率の低下を通じて、資本蓄積の伸びにも低下圧力がかかる。
労働投入については、現状を放置すると2050年までに労働力人口が2000万人減少するとされており、相当なインパクトがある。1つの対策は、女性や高齢者、外国人の活躍推進である。性別や年齢、国籍で差別することなく、働きやすい柔軟な労働市場を構築すべきだ。当センターの試算では、女性・高齢者・外国人の活躍推進によって、2050年時点で650万人の労働力を確保できると見込んでいる。しかし、2000万人のマイナスを相殺するには十分ではない。
人口問題の根本解決には、出生率の向上が不可欠である。しかし、そのためには相当な財源が必要になる。当センターでは、合計特殊出生率を足もとの1.4から2.1にまで引き上げるためには、13兆円もの財源が必要になると試算した。仮に消費税率10%以上への引き上げを行わないのであれば、13兆円の財源を確保するためには、社会保障の負担構造を抜本的に見直さなければならない。
当センターは、具体的な財源捻出策として、医療と介護に投じられている公費負担をすべて自己負担と保険料負担にすることで22兆円、所得税制における控除縮小・税率引き上げで5兆円、あわせて27兆円を確保することを提案した。財源は、子育て支援に13兆円充当するほか、基礎年金の全額国庫負担化に14兆円充てる。提案が実現すれば、子育て世帯の所得が30万~70万円程度プラスになる一方、高齢者などは所得が減少することになる。
社会保障の改革は、国民の反発が大きいと思うが、今の社会保障制度には大きな世代間格差があり、持続可能なものとはいえない。制度を抜本的に見直し、世代間の不平等を是正すべきである。
■ イノベーションで生産性の向上を
人口減少のマイナス影響を軽減するうえで、生産性の向上も重要な課題である。日本の労働生産性は他の先進国より劣るとされており、米国の7割以下との分析もある。ただ、その分だけキャッチアップする余力が残されているとも考えられる。2015年を他の先進国に追いつくジャンプスタートの年として位置づけ、新たな成長経路へ移行すべきである。
生産性向上のカギはイノベーション。これまで肉体労働の機械化が進んできたが、今は「第二の機械化時代」であり、人工知能が高度に発達し、頭脳労働の機械化が進んでいる。「第二の機械化時代」には、それに見合った産業構造に移行することが求められる。
今後の取り組みを考えるうえで、ICT普及時の対応は反省材料になる。ICTが普及し始めたときから、米国では労働生産性の伸び率が大きく高まったが、日本ではそうした傾向がみられなかった。米国ではICTを企業戦略の中核に位置づけるなど、積極的に活用してきた。他方、日本ではICTをコスト削減などの合理化のみに用いてきたため、画期的なイノベーションが生まれてこなかったのではないか。
新たなイノベーションの創出には、産業界のイニシアティブが不可欠だ。今後の経団連の活動に期待したい。
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講演後、子育て支援の財源捻出策や、外国人材の受け入れなどについて、活発な意見交換が行われた。
【政治・社会本部】