経団連の関連団体であり、CSR(企業の社会的責任)推進のための情報提供等を行っている企業市民協議会(CBCC、佐藤正敏会長)は4月28日、東京・大手町の経団連会館で「CSR国際シンポジウム2015」を開催した。同シンポジウムは、CBCCの設立25周年を記念して開催されたものであり、CBCCの会員企業をはじめ、経団連会員企業、わが国でビジネスを行う海外企業の役員やCSR担当者、関係各国の大使館員など約160名が出席した。
シンポジウムは佐藤正敏CBCC会長による開会あいさつで幕を開け、まず「CSRをめぐる世界の最新情勢」をテーマにパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションには、米国、欧州、東南アジア、中国から、CBCCと日ごろ交流のあるCSR推進団体等の有識者がパネリストとして参加し、世界各地域のCSRの実情が紹介されたほか、わが国の状況との違いや共通点について討議が行われた。
次に、岩井克人東京大学名誉教授が基調講演を行い、続いて「日本企業として今後なすべきことは何か」をテーマとするパネルディスカッションが行われた。ここでは、企業のトップおよびCSRの実務担当者、投資家団体、NGOの代表がパネリストとなり、日本企業のCSRへの取り組みにおける特徴や強み、その強みをどのようにグローバルな課題の解決や企業の競争力強化につなげるか、ステークホルダーとの効果的なエンゲージメントの方策等について、活発に議論が行われた。
岩井名誉教授による基調講演の要旨は次のとおり。
■ 基調講演「21世紀における資本主義の新しい形―芸術と経済の基底に倫理を見いだす」
1930年代の大恐慌時代、世界は「資本主義対社会主義」の大論争に覆われたが、100年に一度の危機とされたリーマン・ショック後の世界では、そうした論争はまったく起きていない。
現代は「ポスト社会主義」の時代であり、われわれは「この資本主義をどうしたらよいか」を考えなければならない状況にある。アダム・スミスやミルトン・フリードマンに代表されるこれまでの主流的な資本主義論では、私的利潤の追求こそ企業にとっての「善」なる行動であり、CSRは「窃盗罪」とされている。
そうしたなかで、私は、契約関係にはない主体の間に存在する「信任関係」と、信任関係が維持されるために必要となる「信任義務、忠実義務」こそが、ポスト産業資本主義時代の重要な理論になるのではないかと考える。「信任関係」とは、例えば、意識がない状態で救急病棟に運ばれた患者とその患者に緊急手術を施す医師との関係である。患者は医師と契約を交わしたわけではないが、患者は信頼によって自らの命を医師に任せ、医師は患者の命を任される関係にある。
信任関係は、信任の受託者が信任受益者に対して自己利益の追求を抑え、受益者の利益のみに忠実に仕事をする「信任義務、忠実義務」を負うことによってのみ維持できる。ここでは「倫理性」が重要視されるほか、これを補う「信任法」が必要となる。
信任関係とそれを律する信任法は、新たな資本主義、新たな市民社会のあり方の基礎モデルになり得ると考える。
CBCCでは、今後もCSR関連情報の収集・提供等を通じ、日本企業による戦略的なCSRの実践を支援していく。CBCCへの入会に関する問い合わせは、CBCC事務局まで。
※ CBCCの概要、活動内容等は、http://www.keidanren.or.jp/CBCC/ 参照