21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)は4月27日、研究プロジェクト「日本型オープンイノベーションの研究」(研究主幹=元橋一之・東京大学大学院教授)の研究成果を踏まえ、東京・大手町の経団連会館で第112回シンポジウム「日本型オープンイノベーションを求めて」を開催した。
■ 基調講演
冒頭、久間和生総合科学技術・イノベーション会議議員が基調講演を行った。久間氏は、現在策定中の第5期科学技術基本計画(2016~20年度)では、今後10~20年後のわが国のあるべき産業構造と社会構造を念頭に、未来の産業構造・社会変革に向けた取り組み、経済・社会的な課題への対応、基盤的な力の育成・強化を推進してはどうかと考えていると述べた。
■ 研究報告「日本型オープンイノベーションの研究」
続いて、元橋研究主幹が研究報告を行った。元橋氏は、日本の大企業は技術の進歩や複雑化、不確実性の増大により対応すべき技術的課題が拡大する一方、国際競争の激化や開発コストの増大によりこれまで以上に事業の集中が求められていると指摘。さらに、モノづくりだけではなく、サイエンス(科学的知見)に裏づけられたコトづくりが必要な時代であり、オープンイノベーションの導入が必要と指摘した。
また、日本のイノベーションシステムでは、技術力のある中堅企業と大企業が協業し、大学や国の研究所が人材供給や技術指導を行っていると現状を説明。さらに、特定の企業や大学との付き合いが長く続くという関係依存性の強さ=雇用の流動性の低さを特徴としているとして、少なくとも短期的にはそのような日本のシステムをベースとした日本型のオープンイノベーションが必要と述べた。
■ パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、元橋研究主幹をモデレータに、阿部晃一・東レ副社長、J・ラーダーキリシャナン ナーヤ・P&Gイノベーション合同会社コネクトアンドデベロップメントマネージャー、西尾好司・富士通総研経済研究所主任研究員、諏訪暁彦・ナインシグマ・ジャパン社長の間で活発な討議が行われた。
阿部氏は、東レでは日本人気質に合った日本流イノベーションの創出を基本として、「超継続」や「深は新なり」との考え方をもとに既存産業の内なるフロンティアの開拓などを進めていると述べた。また、単独企業では行えない大型の研究開発プロジェクトは、公的研究機関を中心とした垂直連携によるコンソーシアムで進めるべきとの見解を示した。
ナーヤ氏は、オープンイノベーション導入には、例えば、(1)製品を市場に早く出すことを評価して自前主義の社内文化を変える(2)チームワークをよくするために社内の横の連携をつくる(3)win-winとなる長期的なパートナーシップを構築する――ことが重要などと挙げた。
これを受けて諏訪氏は、東レが成功している要因として、経営トップ層がオープンイノベーションに直接関わって推進するなど本気度の違いが大きいと述べた。また、日本企業全体としては、新しい相手と連携することを苦手としているために自前に頼らざるを得ない面もあり、改革していく余地があると指摘した。
西尾氏は、P&Gのようにオープンイノベーションを経験した者がさまざまな部署に異動し、その文化を社内に根づかせることが重要であると述べた。また、イノベーション政策を議論する際は、サービス業なども含めるべきだと指摘した。
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シンポジウムの詳細は、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。
【21世紀政策研究所】