経団連は4月21日、東京・大手町の経団連会館で雇用委員会国際労働部会(得丸洋部会長)を開催した。ILO(国際労働機関)多国籍企業局の荒井由希子上級専門家から、労働CSRの国際動向と今後の課題について講演を聞いた。説明の概要は次のとおり。
■ CSRに関する国際的な政策議論の動向
昨今のCSR政策をめぐる国際的な動きとして、(1)今年9月の国連総会で採択予定の国連の「持続可能な開発目標」の検討(2)G20の「包摂的なビジネス」に関する枠組みづくりの検討(3)EUのCSR戦略の改定に向けた検討――などの取り組みが行われている。
ILOが1977年に採択した「多国籍企業宣言」は、多国籍企業の海外進出先における責任ある労働慣行の実施を求めている。同宣言は、こうした国際的なCSR政策の検討の場において、規範文書に位置づけられており、ILOも議論への参加等を通じて支援を行っている。
■ 企業の労働CSRの取り組み
近年、多国籍企業では、途上国を中心に、取引企業を含めて、労働面でのコンプライアンスの確保に向けた取り組みを強化している。ILOの調査では、取引先企業の行動をチェックしている多国籍企業は8割に上る。
具体的な取り組みとして、(1)行動規範を設定し(2)監査・モニタリングを実施し、(3)場合によって第三者機関による認証・ラベリングを行い、(4)監査結果等の情報開示を行う。その大半がILOの中核的労働基準に関係するため、ILOでは、「ヘルプデスク」という専門窓口を設け、多くの企業から相談を受け、支援を行っている。こうした企業努力の結果、労働安全衛生分野で大きな改善がみられ、労働災害はかなり減少している。
最近の企業の取り組みの傾向として、いかに他に害を及ぼさないか、制裁を受けないかという消極的な姿勢ではなく、監査等を通じて、取引先企業の業績向上、さらには相手国の発展につなげるという積極的な姿勢に移行しつつある。
■ ILOの今後の取り組み
企業のCSRの取り組みが進むなか、労働CSRの規範的ガイドラインである、ILOの「多国籍企業宣言」の重要性が増している。ILOでは、各国政府や企業に対する労働CSRに関する支援を強化している。ILOの多国籍企業局では、企業のCSRの先進事例の収集を進めており、今後、その発信と共有を図っていく。日本企業は先進的な取り組みを行っている企業が多いが、そうした情報が国際的に十分発信されていない。今後、好事例の収集等での協力をお願いしたい。
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講演に続き、「第104回ILO総会議題への対処方針」について審議が行われ、了承された。
【国際協力本部】