経団連事業サービス(榊原定征会長)は12月1日、東京・大手町の経団連会館で第26回経団連昼食講演会を開催し、日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所上席主任調査研究員の佐藤百合氏から「インドネシア・ジョコウィ政権の課題と展望」をテーマに講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。
■ インドネシア経済の現段階
インドネシアはユドヨノ政権(2004~14年)のもと、平均5.8%の実質経済成長率の達成、2500兆から1京ルピアと約4倍に経済規模が拡大するなど、「成長の時代」を実現し、インフラ整備など投資環境も改善した。だが、構造的な脆弱性も抱えている。
スハルト体制下で産油国型から新興工業国型へと輸出構造が転換し、いったん拡大した工業製品比率は、2000年代に石炭とパーム原油などの輸出増で相対的に縮小し、国際市況の変動影響が大きくなっている。政府は2010年代から資源の国内加工と再工業化に向けギアチェンジを図っている。また金融資産規模が1997年の通貨危機以来縮小停滞し、金融仲介機能が回復していない。足元の景気は底である。中国・インドの減速により輸出がマイナス、投資も鈍化しており、14年は5%成長を割る可能性もある。
■ ジョコ・ウィドド政権の経済政策
ジョコウィは、地方の零細企業家から地方首長というルートを経た、エリートでも軍人でもない初めての大統領である。選挙戦では、庶民とエリート、民主主義と権威主義、多元主義とイスラム主義など、プラボウォ候補との対立軸が鮮明になった。だが、複合的な亀裂を持つことがインドネシア社会の強靭さにもつながる。
ジョコウィは合理主義者で、現場を重視し、ITを活用する。市長時代には身分証の電子化により事務合理化と汚職の排除に成功して注目された。組閣においては、内閣運営の要に政治学者を登用し大統領機能の強化を図るとともに、閣僚は実行部隊として起業・経営改革の経験者を中心に人物本位で人選した。政権公約からは、(1)海洋ドクトリン(海洋文化の再興、海洋資源の活用、海洋インフラの整備、海洋外交、海洋安全保障)(2)分配政策の重視(ただし6%成長が前提)(3)インドネシア中心志向性(内需・国産品・国内資本を優先、資源の国内加工推進)――といった特徴が読み取れる。「主権」「ブルディガリ(自分の足で立つ)」「インドネシアらしさ」を強調している。改革に向けた議論は尽くされており、あとは「実行あるのみ」「ともに働こう」と訴える。
具体的には11月に燃料補助金カットを断行し、燃料価格の3割以上の値上げに踏み切った。分配政策とインフラ投資の原資を確保するためである。値上げ前に貧困世帯を対象に保健カード、奨学カードを配布し、分配政策を拡充した。また投資の許認可手続きの簡素化にも着手した。ただし、国政運営を左右する議会との関係性は脆弱である。議会の過半を握ったプラボウォ陣営との対立構造は今後も続く。
新政権の経済課題は(1)分配政策(2)マクロ経済安定化(3)開発政策――という方向性の異なる政策のバランスを取りながら同時に遂行することである。国内的には分配重視・経済ナショナリズムという姿勢を常にアピールし続ける必要がある一方、対外的には財政規律の維持、成長・開発・プロビジネス志向、外資誘致や競争力強化への積極性などを発信していかなければならない。
■ 日本が気をつけるべきこと
インドネシアでは、日本企業は高く遅く現地人材を使わないとみられており、ビジネスを進めるうえでイメージ刷新が必要である。また新政権の政策が外資にとって逆風となる可能性もある。「インドネシア中心志向性」をよく理解し、海洋、産業人材、生産性・競争力など、両国の接点を前面に立てて関係構築を図ることが求められる。
ジョコウィ新大統領という庶民目線の多元主義者、実行重視の指導者が登場し、インドネシアは「働き方」を変えようとしている。経済政策では分配政策が前面に出るが、成長なくして分配はない。分配の内容、成長とのバランスが重要となる。平均6%成長の持続をボトムラインとして、構造的脆弱性の克服や競争力の強化に向け、外資を賢く利用することが必要となる。
日本は、ジョコウィ政権の性格を理解し、インドネシアの発展に寄与できる協力関係の構築を対話によって働きかけていくことが肝要である。
【経団連事業サービス】