経団連は5月21日、東京・大手町の経団連会館で知的財産委員会企画部会(堤和彦部会長)を開催した。東京大学政策ビジョン研究センターの渡部俊也教授から、「最近の知財政策を見る視点」と題して、知財制度をめぐる諸課題とその対応について説明を聞き、意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 技術流出対策の見直し
出願された特許データを統計的に分析することで、人の移動が知の流出や獲得を生むことを実証的に明らかにすることができる。人の移動は、特許データから明らかになるもののみならず、ノウハウも含めた技術情報の意図せぬ流出にもつながっていると考えられる。アンケート調査等で明らかになる技術流出はあくまで氷山の一角であり、早急な技術流出対策が必要である。
韓国における法律は一般的に機能していない法律条文があるなど、細部の詰めが甘い一方で、制度設計のスピード感や訴訟件数の多さは評価できる。技術流出対策についての法律も同様な面があるかもしれない。それでも技術流出対策には実効をあげることが重要であり、早く対策を打つという点で日本も見習うべき点は多い。
■ 職務発明制度の見直し
特許を受ける権利について法人と発明者のいずれに帰属させるかは立法政策上の考え方の違いであり、さらに企業と大学において発明が生まれる環境が大きく異なっていることを踏まえて制度のあり方を考える必要がある。
大学においては、職務発明の範囲がどこまでなのかが不明確であることや技術情報をノウハウとして保持することがない等の特徴を考慮した制度にすべきである。一方、企業においては、発明と動機づけに関連して、金銭報酬が発明者のモチベーションを下げる可能性があることに留意すべきである。
■ 日本版バイ・ドール法の運用の見直し
日本では、米国のバイ・ドール法を参考に政府委託による研究開発の特許権を委託者側に帰属させる制度をとっているが、従来の法目的である研究開発の成果の活用促進に用いられているとはいい難い。この日本版バイ・ドール法の運用を見直すことで、政府委託による研究開発のさらなる活用を進めることが必要である。
■ 3Dプリンターにまつわる知財問題
3Dスキャンによってあらゆる物がデータ化され、複製可能となる一方、現行法では個人利用の複製を規制することができない。知財の研究者や専門家には、急速な技術発展により今後起こりうる知財問題に対応できるような、先を見据えた研究が求められている。
【産業技術本部】