経団連事業サービス(米倉弘昌会長)は13日、東京・大手町の経団連会館で第7回「経団連 Power Up カレッジ」を開催し、野村證券の古賀信行会長から「なぜ人は働くのか」をテーマとする講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。
■ 働くことの目的、意味、原点
経営とは、端的にいえば「人にどのように働いてもらうか」ということである。今回このテーマを取り上げた理由は、ミドルマネージャーの方々に働くことの根本に立ち返って考えていただくきっかけとなればと思ったからである。
「なぜ働くのか」という問いに「生活するためには金を稼がねばならないから」と答える方が多いであろう。それでは、得られる金額が多ければ多いほどよいかといえば、そうともいえない。
また、人は努力に見合わない高額の収入を得ると、仕事のプロセスや努力が正当に評価されていないのではと不安になる。働くことのモラールを維持するためには、その人の仕事のプロセスや努力を見ている人が必要である。仕事の成果も大事であるが、経営・管理者層は、部下が何に注力し、どのように努力したかをよく見て、本人に伝えることが何より重要である。
企業で働く障がい者に、社会福祉で一定の生活は保障されるのになぜ仕事をするのかを問うた人がいた。「幸せ」を感じるには、(1)愛される(2)ほめられる(3)役に立つ(4)人に必要とされる――の四つの充足が必要であり、その多くが仕事を通じて得られるから、というのが答えであったそうである。働くことの本質は、まさにここにあると思う。
■ いきいきと働いてもらうために必要なこと
経営層には、どうすれば人にいきいきと働いてもらえるかを考え続け、世の中の変化に敏感であることが求められる。変化に気づかなければ、的確な施策は打てない。
例えば独身寮を人材育成の場として復活する案があったとして、携帯電話やコンビニエンスストアの普及など、個々人を取り巻く生活環境の変化を踏まえずに復活させても、人材育成につながるようなコミュニケーションは復元できない。
また、今は組織の同質性が収益増に直結するという時代ではなく、多様な人材を確保しない限り、業績は下方スパイラルに陥ってしまう。組織が力を持つためには、仕事の効率化や新規開拓等のアイデアやポテンシャルがたまっている層をどう活かすかが重要であり、今は女性や外国人の持つ力を解き放つことが、会社や社会を変えていく。
■ ミドルマネージャー層への期待
アベノミクスのもと、「行動すれば変わる」という前向きなマインドへの変化がみられるのは喜ばしく、東京五輪の招致の成功も良い効果をもたらした。今後、成長戦略の実行が重要となるが、この政策さえ実施すれば変わるという単純なものではない。例えば、個人金融資産1500兆円の1%が動くだけで変わるといわれて久しいが、貯蓄から投資へのシフトをいくら呼びかけても、個々人の心情を抜きに行動は起こらない。企業経営においても政策立案においても、「どうしたら人は動くのか」という素朴なところから具体策の着想を得ていくことが必要である。
また、規制緩和が重要であり、公平感は時代によって変化することを踏まえ、規制の背景・必要性を含めてよく見直すべきである。そのためには従来の知見にとらわれない世代でなければできないこともある。
日本の中位数年齢は45歳前後であり、この世代は決断した結果が自分の生きている間に跳ね返ってくる。ミドルマネージャー層には社会・組織の真ん中で働くという気概をもって仕事に臨んでほしい。
【経団連事業サービス】