経団連は3日、東京・大手町の経団連会館でシンポジウム「持続可能で成長と両立する社会保障制度改革に向けて」を開催した(前号既報)。基調講演に続く、第二部のパネルディスカッションでは、岩本康志・東京大学大学院経済学研究科教授、川渕孝一・東京医科歯科大学大学院教授、西沢和彦・日本総合研究所上席主任研究員の3名がパネリストとして参加し、活発な議論が行われた(モデレーターは浅野友靖・社会保障委員会企画部会長)。概要は次のとおり。
(1)社会保障・税一体改革関連法の成立から現在までの評価
はじめに、昨年8月に成立した「社会保障・税一体改革関連法」や、その後の政権交代を挟んで十数回開催されている「社会保障制度改革国民会議」(以下「国民会議」)における議論について、評価を聞いた。
このなかで、「国民会議で議論され、決まった事項は多くない。これまでに議論された内容も、大企業に負担増を求める総報酬割の拡大や、国民健康保険の保険者(現在は市町村)の都道府県への切り替えなどが中心となっている」(西沢上席主任研究員)、「『必要な時に適切な医療を適切な場所で最小の費用で受ける』医療への転換が打ち出されたことは評価できる一方、『平均在院日数の減少等で4400億円の効率化が生じる』とした点については、いかにして在宅シフトを進めるかが見えないので評価できない」(川渕教授)、「3党合意で積み残された課題を議論する場として国民会議を立ち上げたはずなのに、政治状況の動きから十分な議論ができないまま、またしても課題が積み残されている印象である」(岩本教授)といった指摘があった。
(2)あるべき社会保障制度改革の具体像
次に、今後目指すべき改革の具体像について議論を行った。
医療・介護分野については、「要医療と要介護の峻別が困難な75歳以上のお年寄りを対象として、後期高齢者医療制度と介護保険制度の統合を進めるべき」(川渕教授)、「居住・在宅系サービスへのシフトが進むと費用が上がるが、こうした改革が妥当かどうか精査する必要がある」(岩本教授)といった意見が出された。また、西沢上席主任研究員から、「病床機能の再編を具体的にどうやって進めていったらよいか。在宅医療へのシフトは医療財政の健全化と関係があるのか」といった問題提起が行われた。これに対して川渕教授から、「診療報酬による看護師配置の誘導を行った結果、看護師配置が手厚い病床ばかりが増えるなど、病床機能に偏りができてしまった。さらにデータ不在のままやみくもに病床機能の再編を進めようとしているが、これでは屋上屋を架すことになる。むしろ、医療財政の健全化という観点では、個々人の属性情報と受療履歴を用いて、将来の疾病リスクや医療費支出を予測するシステムの導入が有効」とのコメントがあった。
年金分野については、「足もとの過剰給付を是正し、将来世代の負担増を回避していくべき」(西沢上席主任研究員)、「具体的な数字を入れ、制度が持続可能かどうかをチェックするとともに、世代間・世代内の公平を図っていくべき」(岩本教授)との指摘があった。
(3)政府や経済界への期待
最後に、社会保障制度改革の推進に向けた政府・経済界への期待として、「政策は政党の魂。社会保障政策についても、国民会議での議論に委ねるだけではなく、自らの党の考え方をはっきりとアピールすべき」(西沢上席主任研究員)、「政治家は次の選挙を気にするあまり、視野が短期的になりやすい。だからこそ、国民一人ひとりが中長期的な視野を持つことが必要」(岩本教授)、「経済界にはアベノミクスを追い風に、これからも経済成長のけん引役となってもらいたい」(川渕教授)とのコメントがあった。
【経済政策本部】