政府は今年3月から、総合資源エネルギー調査会において新たなエネルギー基本計画の策定に向けた議論を始め、年内を目途に取りまとめるべく検討を進めている。
同計画は国民生活や企業活動に与える影響が極めて大きいため、現実的なエネルギー政策が実現されるよう、経団連としても積極的に政府へ働きかけていく必要がある。
こうしたなか経団連は4日、東京・大手町の経団連会館で資源・エネルギー対策委員会の企画部会(鯉沼晃部会長)を開催し、慶應義塾大学産業研究所の野村浩二准教授から、これまでのグリーン成長政策の評価や今後のエネルギー政策のあり方について説明を聞くとともに意見交換を行った。
野村准教授の説明の概要は次のとおり。
1.再生可能エネルギーへのシフトと経済成長
前回のエネルギー基本計画策定に際しては、再生可能エネルギーを大量に導入することにより投資を促し、経済を成長させるとの考え方が議論の前提となっていた。この点に関して、国立環境研究所を含む四つの研究機関による経済モデル分析の結果、「原子力発電をゼロとし、再生可能エネルギーを大量に導入すれば、電力価格の上昇により、2030年の経済成長率は、ベースラインよりもマイナスになる」との点で一致した。
さらに、経済成長率には表れてこないが、再生可能エネルギーの導入を急ぐことにより、将来世代へのコスト負担を生じるとともに、若年齢者層に厳しく高齢者層に甘い所得再配分効果を生じることも課題として挙げられる。
2.再生可能エネルギーの導入と国際競争力
太陽光モジュールは、わずかな価格変化で輸入シェアが相対的に大きく変化しており、価格以外での差別化が困難な製品である。こうしたなか、固定価格買取制度を導入することは、電力コストの上昇による価格競争力の低下、生産高の減少、規模の経済の喪失による一層の競争力の喪失といった負のスパイラルを招く懸念がある。
3.グリーン成長の可能性
世界的に、グリーン成長は“narrow path”であることが共通認識となっている。それに対し日本では、生産における学習効果の蓄積や雇用の誘発効果に安直に期待した議論や、需要拡大が需要の前倒しにすぎない点を軽視した議論が行われている。その結果、市場の失敗を補完するはずのエネルギー政策が、グリーン成長への幻想を伴って政府の失敗を発生させているのが現実である。
グリーン化によって日本が成長するとすれば、技術開発に対する支援を行うことで中長期的な技術革新に対するインセンティブを高めるか、海外で新規技術が導入される機会を広げ、輸出を増加させるというルートしかないであろう。
【環境本部】