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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年3月21日 No.3124 21世紀政策研究所が第98回シンポジウム開催 -金融と世界経済で議論

21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎所長)は、7日、東京・大手町の経団連会館で第98回シンポジウム「金融と世界経済―リーマンショック、ソブリンリスクを踏まえて」を開催した。

同研究所では、リーマンショック、欧州におけるソブリンリスクの高まりを背景に、欧米を中心に金融に対する批判、「金融資本主義」への懸念が増大したことから、過去30年の金融と実体経済の関係について、米国、欧州、日本を中心に検討してきた。今回のシンポジウムでは、その研究成果の報告ならびに、リーマンショック後の非伝統的金融政策について話を聞くとともに、「これからの金融と世界経済」というテーマでパネルディスカッションを行った。

まず、研究主幹の池尾和人・慶應義塾大学経済学部教授が、「金融拡大の30年間を振り返る」と題して、(1)1980年代以降、先進国経済の「金融シフト」が生じるなかで、米国では、証券化、デリバティブなどの金融イノベーションや「市場に優しい」金融政策、金融工学などによって、社会全体としてのリスク負担キャパシティーが拡大した(2)その結果、最初の20年間は経済活動の効率化を促したが、後半10年間は有効に活用できず、金融が肥大化した――と述べ、金融と実体経済の役割分担を見失わないことが重要である旨指摘した。

続いて、研究委員の翁邦雄・京都大学公共政策大学院教授が、「金融危機後の非伝統的金融政策」と題して、スイス、米国、英国の事例を紹介した。(1)ゼロ金利制約下で主要中央銀行はさまざまな実験的金融政策を行っており、今後、インフレ率がかなり高い状態になっても、中央銀行への景気刺激要請は持続する可能性が高い(2)スイスは、スイスフランの急騰に対して、大規模な量的緩和を行ったが歯止めがかからず、為替市場への無制限介入政策で劇的な効果をあげた(3)米国は、フォワードガイダンス(政策当局による金融緩和姿勢の継続期間の表明)を強化して「エバンス・ルール」(金融緩和解除のための失業率やインフレ率の具体的な閾値を示す)を導入した(4)英国は、量的緩和の名目総需要拡大効果が小さかったことから貸出促進政策に転換した――と述べた。

■ パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、研究委員の高田創・みずほ総合研究所常務執行役員、後藤康雄・三菱総合研究所主席研究員、小黒一正・一橋大学経済研究所准教授が加わり、活発な議論が展開された。討議の一端は次のとおり。

高田氏は、日本は90年以降、バランスシート調整が生じ、欧米も2007年以降調整が生じており、いわば欧米の日本化現象が進んでいると指摘した。また、日本と欧米の金融環境の局面が異なるなか、一律のグローバルな金融規制が必要か、と疑問を呈した。

後藤氏は、金融危機の原因は、経常黒字国の資金が米国市場に流入したことにあるとするグローバル・インバランス仮説と、米国を中心とする世界的な金融緩和にあるとする過剰流動性仮説があるが、金融市場の動向等を見ると後者の妥当性が高い、と述べた。

小黒氏は、日本の政府債務は急速に膨張しており、アベノミクスが実現できても楽観できる状況ではないと指摘。過去の高金利で発行した国債を低金利で借り換える「金利低下ボーナス」は終焉しており、利払い費は確実に増えていく、との見解を示した。

また、今後の日本の経常収支は、所得収支の黒字等で黒字を維持するという見方と、貿易収支の赤字によって徐々に赤字になるという見方に分かれた。

シンポジウムの詳細については、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。

【21世紀政策研究所】

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