経団連は4日、東京・大手町の経団連会館で産業問題委員会(西田厚聰委員長、古賀信行共同委員長)を開催し、一橋大学大学院国際企業戦略研究科の楠木建教授から、「ストーリーとしての競争戦略」をテーマに説明を聞いた。
楠木教授の説明概要は次のとおり。
1.競争戦略の考え方
「競争戦略」とは、日本企業全体にあまねく適用可能というものではなく、個別の企業あるいは事業ごとに構築されるものである。その際に留意すべき点は、「森(=外部環境)」や「葉(=目立つ何か)」、さらに「土(=外的な機会)」に目を奪われることなく、「木(=ストーリー)」を見失わないようにすることである。企業や事業を取り巻く環境は常に変化するものであり、それに振り回されないためにも、明確なコンセプトの下で筋の通ったストーリーを描くことが重要である。
2.ストーリーとしての競争戦略
競争戦略には、競合他社との違いをつくるうえでポジショニング(違ったことをする)や組織能力(違ったものを持つ)等の方法もあるが、「ストーリーとしての競争戦略」とは、競争相手との「違い」をつくり、それを「つなげる」ことである。これは取引見取り図のようなビジネスモデルを意味するものではない。こうした見取り図は、儲けるための因果論理を分断してしまうという点で問題を抱えており、時間的な展開という重要な要素を見落としている。
また、ストーリーは、組み合わせでなく、順列で考える必要がある。個々の経営資源というパーツが他と同じであっても、順番を変えることで他社との差別化を図ることが可能となる。
さらに、競争戦略を構築するうえで重要な点は、足もとでは非合理であっても、結果的にはその時の判断が実は合理的であったということ(先見の明)、また部分的には非合理であったとしても全体としては合理的なものとなるといったストーリーをいかにしてつくり上げていくことができるかということである。
多くの企業で見られる問題点として、ストーリーを描くことと、スキルをもって分析することを混同していることが挙げられる。ストーリーをつくり上げるのは本来、商売全体を動かし成果を出す、いわばセンスを持った経営人材が担うものである。しかし、一般的には可視的なスキルが重宝される傾向が強く、ストーリーであるはずの競争戦略が静止画のようになりがちである。優れた競争戦略を構築するうえで求められるのは、まさにこうしたセンスである。組織において、センスのある人を見極め、戦略づくりに携わらせることがカギを握っている。
また、優れた戦略ストーリーをつくった人々の共通点は、自分自身が一番そのストーリーを面白いと思っていることである。戦略の原点にして頂点は、その人が思わず他人に話したくなるようなストーリーをつくれるかにかかっている。
◇◇◇
講演後、産業問題委員会の下部組織である産業政策部会(伊東千秋部会長)で取りまとめた提言案「新たな産業政策体系の構築を求める」を審議し、了承した。
【産業政策本部】