経団連は5日、東京・大手町の経団連会館で常任幹事会を開催し、東京大学大学院経済学研究科の植田和男教授から、「微妙な段階の世界経済」をテーマに講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。
■ 銀行危機と国際資本移動
経済学の理論上、資本流動性が高まると、世界経済の厚生水準が高まるが、実際は、銀行危機と国際資本移動の間に正の相関が見られる。国際資本移動のプラス面を享受するためには、そのマイナス面を顕在化させないよう制度を整備しなければならない。時代がたつにつれ、市場のインフラ整備が国際資本移動の高度化に追いつかなくなったことから、銀行危機が発生しているのではないか。
■ ヨーロッパが抱える問題
現在、イタリア、スペインに世界が注目している。イタリア、スペインの政府債務残高対GDP比は、日本、米国、英国に比べれば低い水準であるにもかかわらず、両国は債務危機の懸念を抱えている。
その最大の理由は、日米英の中央銀行は大量の国債購入のオペレーションを行えるのに対し、欧州中央銀行は国債の利回りの上昇を食い止められるほど大量の国債購入のオペレーションを行ってこなかったからである。それは、ユーロ圏内の国の国債を大量に買えば、当該国に対する財政支援となる可能性があるからで、その結果、ギリシャの債務危機がイタリア、スペインに波及した。
欧州中央銀行は、南欧諸国の信用不安を払拭するための措置を取るだろうが、南欧‐北欧間の政治的対立を反映したものとなるため、欧州債務危機問題は長引くだろう。
■ 世界経済の実情
昨年暮れから今年初めまで回復していたグローバルな景況感は、春先以降下向きに転じており、8月になっても製造業の景況感は改善されていない。
中国経済は、これまでの高い成長率を維持することが難しい段階に入りつつあるとの見方があり、最近、市場関係者の間で、「ヨーロッパの問題がひと段落ついた後に注目されるのは中国経済の弱さではないか」という見方も出されている。
米国経済は、2007年以降続いたバランスシート調整がひと段落ついたとみられているが、経済の回復を支えてきた耐久財投資がこの半年減速している。また消費を支えてきた財政からの支援措置が今年末で打ち切られ、来年以降どうなるのかわからないため、米国経済は非常に微妙な段階にある。
日本経済は、円高が足を引っ張っていると言われるが、実質実効為替レートでみると、日本はデフレ、外国はインフレであるため、実際にはそれほどの円高ではない。日本のデフレ、外国のインフレが日本の相対的な競争力を高める要因となっており、日本と韓国の価格競争力を比較すれば、日本の現在の競争力は2000年代前半の水準に戻っている。日本は、民間部門のバランスシート調整がかなり進んでいるので、財政問題を解決すれば、日本経済が上昇する可能性はあるだろう。
【総務本部】