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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年9月13日 No.3100 昼食講演会シリーズ<第16回> -「人口成熟時代の地域・日本経済活性化」
/日本総合研究所調査部主席研究員 藻谷浩介氏

経団連は7月25日、東京・大手町の経団連会館で第16回昼食講演会を開催し、152名の参加のもと、日本総合研究所調査部の藻谷浩介主席研究員から「人口成熟時代の地域・日本経済活性化」と題した講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 日本の貿易収支が示唆する問題

震災、円高、ユーロショックが続いた昨年、日本の国際収支は、第2次石油ショック以来31年ぶりの貿易赤字となった。さらに今年の上半期にも、すでに昨年と同額の貿易赤字が積み上がっている。

だが円高で輸出額が減っているのではない。貿易赤字の原因は、原発事故後に加速した資源価格高騰による輸入額の増加だ。勘違いされがちだが、為替が円安に戻れば、貿易赤字はさらに拡大する。

相手国別の収支を見ても、日本は、中韓印などのアジア諸国や米国、EUに対して貿易黒字を続けているが、その儲けを丸々アラブなど資源国に貢ぐかたちになっている。

だが前向きな対応策はある。機器買い換えによる家庭での省エネの推進だ。バブル崩壊以降、名目GDPも企業の電力使用量も増えていないが、家庭の電力使用量は3割増えている。10年前の家電製品を最新式のものに買い換えれば、使用電力を4-8割も減らせるし、円高で苦境の業界の売り上げが増え、GDPにもプラスだ。さらに車の買い換え、断熱工法での住宅改修を進めれば、一層の省エネと内需拡大が図られる。この点企業と国民の利害は一致している。

■ スイス、フランス、イタリアの戦略

ところで日本から黒字をあげているのは資源国だけではない。例えばスイスやフランス、イタリアも対日黒字だ。

特にスイスは、スイスフラン高のうえに、最低時給が1400円と日本の2倍の水準であるにもかかわらず、高い競争力を発揮している。象徴的なのが時計だ。クォーツ時計との技術・価格競争に深入りせず、職人手づくりの高級時計を中心に生き残りを図ってきた結果、現在の腕時計輸出額は年間1兆7千億円。日本の腕時計の年間生産額の10倍にもなっている。

「ハイテク」とは本来、優れた技術を独占し、製品に価格転嫁できているものを指す。現代社会では、高級時計やワインのような職人の手づくり品こそがむしろハイテクだ。機械を買えば誰でも製造できるようなものをハイテクだと勘違いしていてはいけない。フランスのハイテク商品はワインであり、イタリアのそれはフェラーリである。日本は、戦略性さえ持てば、スイスにもフランスにもイタリアにもなれる。

■ 経済低迷の実相

2000年代前半、日本の個人所得の総額は増えたが、国内の小売販売額は低迷した。当時金融投資で儲けた層が、モノ消費をせず、生涯金融資産額の増加を目指すタイプの人たちだったからだ。彼らから遺産を相続するのは平均60代後半の子どもたちであり、彼らもお金を使わない。

他方、日本企業は、驚異の我慢強さを発揮し、コストダウンで資源高に対応した結果、若年層は低賃金で企業に雇われ、雇用者層の消費力が衰えていった。それがさらなる少子化も招いている。生産年齢人口が減少する日本では、意図的にベースアップをしない限り、総賃金と消費が減り、GDPも縮小し続ける。

このようにきちんと問題を整理すれば、対処策も明快になる。米国に比べ高齢化率は4倍近いが、健康長寿でサービスも効率的であるため、1人当たり医療費・福祉費は低い。人口減少で食料やエネルギーの所要量が減るので、世界的な需給逼迫にも耐性が高い。高齢者に安心を与えて、孫への相続や生前贈与を促し、若年者にお金を回すこと、企業が、高齢者が喜んで購入するものを製造・販売すること、従業員の給料を増やし、子育て中の従業員を支援すること、こうした対策を展開すれば、オイルショックを克服した時と同様、日本は困難を乗り越えられる。

【総務本部】

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