経団連は7月24日、東京・大手町の経団連会館で産業問題委員会産業政策部会(伊東千秋部会長)を開催し、経済産業省の角野然生産業構造課長から産業構造審議会新産業構造部会の報告書「経済社会ビジョン(成熟と多様性を力に-価格競争から価値創造経済へ)」について説明を聞くとともに、意見交換を行った。
角野氏は経済社会ビジョンについて、日本が今後いかにして稼ぎ、雇用を生み出していくのかという問題意識の下、新たな産業を創出するための仕組みを検討したものであると説明。その結果を政府で取りまとめる「日本再生戦略」(7月31日閣議決定)に反映させていきたいと述べた。角野氏の説明の概要は次のとおり。
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日本は近年、デフレが継続するなか、1人当たりの生産性が向上している一方で労働所得は低下、消費も低迷していることから閉塞感に満ちている。これまで日本経済をけん引してきた「大量生産・価格競争」の成長モデルと「終身雇用・正社員・男性中心」の就労モデルが限界に直面している。こうした状況を打開するためには、国家の成長と個人の豊かさの再接合が欠かせない。このため、今回の報告書では「経済成長ビジョン」と「人を活かす社会ビジョン」が柱になっている。
「経済成長ビジョン」では、潜在的な内需を掘り起こしグローバル市場を獲得するための政策の方向性として、第一に、高くても売れる商品・サービスを生みだす「価値創造」モデルへの転換、第二に、グローバル展開の推進、第三に、新産業の創出と産業構造の転換を挙げ、それぞれ先進的な企業の取り組み事例を数多く紹介している。とりわけ、三つ目の点については、ヘルスケア、子育て、エネルギー分野における社会の課題解決の必要性が高まっていることから、法律に基づく予算措置や規制改革に重点的に取り組んでいる。
また、「人を活かす社会ビジョン」では、一人ひとりが価値創造に参画し、活き活きと働く人が増える社会の実現を目指している。その政策の方向性としては、第一に、多様性によるイノベーションの創出、第二に、価値創造をリードする人材が育つ環境づくり、第三に、円滑な労働移動を挙げ、とりわけ、新産業への労働移動を円滑に進めるためには、スキル・経験を持つ人材の「学び直し」が重要と強調している。グローバル人材や生産管理技術人材を求める中小製造業やサービス業、中核的な人材が不足しているヘルスケアなどの成長産業というように、それぞれのニーズに対し民間事業者が、スキルと経験を持つ人材の「学び直し」とマッチングを一体的に進めていけるよう国が支援することで、産業構造の転換を進めたい。
■ 意見交換
経団連からは、日本企業は6重苦など厳しい経営環境に直面しており、成長戦略を政府が着実に実行する必要性を指摘。また、イノベーションを阻害する規制の改革に向け、一層の取り組み強化を求める声が出された。
これに対し角野氏は、政府全体で目標を共有して、政策の実行をやり抜く決意を示すとともに、成長分野と見込まれるヘルスケア産業やエネルギー分野に関する規制改革が後退することのないようにしたいと回答した。
【産業政策本部】