その実現に向けては、国を挙げて、グリーントランスフォーメーション(GX)を進めていく必要がある。GXは、投資主導による成長戦略の柱であると同時に、産業革命以来の人類史を画する、経済社会の大規模な変革である。不透明な国際情勢のもと、エネルギーの安定供給を確保しながら、需給両面において脱炭素化を進める必要があり、国民と企業の行動変容も不可欠である。そのため、幅広い政策の遂行が求められ、国民理解の醸成も必須となる。
こうした考え方のもと、経団連は、提言「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」を公表し、「GX政策パッケージ」の実行を提言した。
本座談会では、提言で掲げた政策の実現に向けた課題を深掘りする。
平野 信行(経団連副会長/三菱UFJ銀行特別顧問)
GXの鍵となるのは、巨額の投資とそれを支えるファイナンスの実現。そのためには、CNに向けた国のグランドデザインと、民間を後押しする政策パッケージが不可欠。金融の立場からみてCNを推進するうえで重要となるのは、トランジション・ファイナンスのルールメーク、投融資先へのエンゲージメント、ESG資金の日本への呼び込み。経団連には、GXの実効性向上に向けて、日本の主要業界や企業に取り組みの加速化を促し、リーダーシップを発揮していく責務がある。
杉森 務(経団連審議員会副議長、環境委員長/ENEOSホールディングス会長)
GX実現のためには、研究開発段階のみならず実装段階も含め、大胆かつ長期的な財政支出に政府がコミットし、事業者の投資予見性を高めるような政策支援を実施していくことが不可欠。GXを成長につなげていくには、長期的な視野で、新規事業への転換や成長分野への労働移動を円滑に進めていく必要がある。日本が開発を進めるトランジション技術は、特に火力発電に依存するアジアの低炭素化に有効であり、日本のビジョンとGX戦略を積極的に発信することが肝要。また、資源外交や民間外交の強化も求められる。
隅 修三(経団連資源・エネルギー対策委員長/東京海上日動火災保険相談役)
GXの実現には、エネルギー分野における抜本的な構造転換が必要。再エネ適地を含めエネルギー資源に乏しい我が国としては、GXに向けたあらゆる選択肢を追求せざるを得ない。科学技術立国を旗頭に、核融合や人工光合成といった脱炭素技術の革新的なイノベーションを生み出すことで、世界をリードすべき。GXによって産業構造が大きく変わる中、リカレント教育の実施やセーフティーネットの設置に加え、打撃を受ける雇用の受け皿となる新たな産業を育てていかなければならない。
山下 ゆかり(日本エネルギー経済研究所常務理事)
ロシアのウクライナ侵攻は、エネルギー安全保障の重要性に光を当てた。移行期においては、新たな技術を開発しつつも、原子力、省エネルギー、循環経済など、今ある技術や資源を徹底的に活用する視点も重要。また、CN実現には、電力のみならず熱需要にも応えられる水素が鍵を握る。GXに向けた新たな事業創出や技術開発を進めるためには、スタートアップやVCの事業参画が推進力となる。大企業や地場の中小企業が持つ技術力と、これからの製品やサービスの開発に向けた新たな発想とを結び付けるプラットフォームが重要。
大橋 弘(東京大学副学長・同大学院経済学研究科教授)
GXに必要となる技術の社会実装には、企業や業界を横断し、異なる時間軸をしっかりと念頭に置いた現実的な議論が必要。水素・アンモニアのサプライチェーン構築や、CO2の回収のバリューチェーン構築等、企業間・業界間の連携を可能にする政策の在り方が重要な論点になる。単に温室効果ガス排出量の多い事業が海外に移転することによって、国内の脱炭素化が進むような事態は避けなければならない。GXの取り組みを一石二鳥・三鳥につなげていくため、これまで当たり前と捉えられてきた規制にも新たな光を当てるべき。
久保田 政一(司会:経団連副会長・事務総長)
- ■ 現下のエネルギー情勢とGXに向けた政府方針の評価
- 我が国を取り巻くエネルギー情勢やエネルギー政策
- エネルギー業界から見た現下の情勢
- 金融業界から見たGXを巡る世界の潮流
- ロシア・ウクライナ情勢を踏まえたGXへのアプローチ
- ■ GXに向けた今後の重要政策の在り方
- GX投資を呼び込むための施策・環境整備
- サステナブル・ファイナンスや国際的ルールメークの在り方
- 国民理解の醸成や産業構造転換への対応
- 成長に資するカーボンプライシング
- ■ GXに向けた経団連への期待・果たすべき役割
- 業界の垣根に風穴を開けるような取り組みへ
- 科学技術立国として日本の脱炭素技術で世界をリード
- 情報発信と民間外交の強化
- リーダーシップを発揮しイノベーション&トランジションを実現