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月刊 経団連  巻頭言 中国との付き合い方

鈴木 善久 (すずき よしひさ) 経団連審議員会副議長/伊藤忠商事社長

2021年1月に米国でバイデン新政権が発足し、中国では習近平政権のもとで新5カ年計画がスタートした。2035年までの国民所得倍増という目標を掲げる中国は、その途上で米国を抜き世界一の経済大国となる可能性が高い。中国の台頭に危機感を募らせる米国は政権が代わっても今のところ強硬な姿勢は崩しておらず、緊張状態は当面は続くだろうが、バイデン政権の動向を注視したい。

新政権下での米国は、日欧などの同盟国と連携しつつ、中国の経済成長を促すような先端技術の流出防止に一段と注力し、一方の中国は、成長の糧を得るため経済的な結び付きの深い日本との関係を重視するだろう。もちろん、日本にとっては米国との同盟関係が最優先であり、特に先端分野では中国との協調に限界がある。米国も加わり世界的な潮流となった脱炭素などの環境分野では、製造業の環境負荷軽減やカーボンリサイクルといった日本の技術や経験が、また、新5カ年計画で成長の柱とされた消費市場の拡大には日本の質の高いサービスが、中国の興味を引くだろう。

先日、がん研究機関の方から、多くの中国人が通常の数倍もの費用をかけて治療に来られると聞いたが、背景に日本の医療への高い信頼があることは間違いない。また、中国からの旅行客がSNSで発信した日本の郷土料理や家庭料理が注目され、中国で日本食レストランが2年間で6割も増加した。ネット販売に押されがちなリアル書店は、日本で流行ったようにカフェ併設など洗練された売り場へ模様替えし、盛り返しているとも聞く。

新型コロナの感染が収束すれば、再び多くの中国人が日本を訪れる。日本企業にとっては、中国消費者市場の牽引役である中間層に直接アピールする良い機会となろう。国家レベルでは、米国との関係や安全保障面など懸案は多いが、政治と経済は分けて考えるべきではないか。中国には「以民促官(民をもって官を促す)」という言葉がある。経済で交流を深めれば、両国関係の安定に繋がることもあろう。企業は、まずはしっかりとビジネスに向き合うことが大切と思う。

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