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月刊 経団連  巻頭言 マインドセットを切り替えてDXで未来を切り拓く

太田 純 (おおた じゅん) 経団連副会長/三井住友フィナンシャルグループ社長

原因不明の肺炎患者が中国で最初に報告されて早1年。昨年の今頃、来るべきオリンピックイヤーがこのような形で終わると誰が予見出来ただろう。

世界を見渡せば、我が国は未知のウイルスとの戦いに善戦したと言えよう。それでも、一連の対応を進める中で、早急に対処すべき多くの課題も明らかになった。その最たるものがデジタル化の遅れだ。PCR検査の結果集計に手間取り、医療データを十分活用出来ず、特別定額給付金の支給は人海戦術で乗り切った。民間でも、緊急避難的にテレワークを導入・拡大した結果、アナログな業務フローを放置してきたことが浮き彫りになった。

我が国は、「IT基本戦略」が取りまとめられた2000年以降、長年にわたってデジタル化に取り組んできたが、「5年以内に世界最先端のIT国家となる」という目標はまだ遠い。国際経営開発研究所(IMD)の「デジタル競争力ランキング」(2020)を見ると、日本は63カ国中27位に留まり、シンガポール(2位)、香港(5位)、韓国(8位)、中国(16位)、といったアジア諸国に後れを取っている。

先を行くシンガポールは、1980年代から国家IT計画を打ち出し、デジタル化を推進してきた。さらに、2014年以降は、国を挙げてスマートネイション構想に取り組んでいる。これは、従来の電子化とは一線を画し、データとデジタル技術を活用して様々な課題解決に繋げようとする戦略である。首相府直下に省庁横断的な推進組織を設置して政府が主導することで規制を柔軟に見直しながら対応している点や、生活者にもソリューション開発への関与を促す価値協創型のアプローチを採用している点などは、我が国がSociety 5.0の実現に向けて歩みを進めるうえで参考になる。

菅首相は規制改革を政権の“ど真ん中”に据えられた。これまでの規制・制度・慣行に縛られていては前に進めない。この機を捉えて、省庁横断的な推進体制を整え、DXの進展を阻む規制などをゼロベースで見直していくべきだ。さらに、国民一人ひとりが「マインドセット」を切り替えることも求められよう。

既成概念にとらわれず、カラを破ってDXに取り組めば、キャッチアップも決して夢ではない。今こそ、新型コロナウイルスの奇禍を奇貨とし、DXの社会実装、ひいては、Society 5.0の実現に向けて大きな一歩を踏み出したい。

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