厚生労働省の人口動態統計によると、2019年の出生数は90万人を割り込む公算が大きいという。団塊の世代の出生数は270万人弱であり、実に3分の1の水準となった。人口減少は避けられない現実であり、特に地方においては喫緊の課題である。GDPの7割を占める地域経済を活性化することは、日本全体の持続的成長に絶対に必要な条件である。
JR東日本グループは東北、信越地方を事業エリアに含み、地方創生には強い危機感と当事者意識を持って取り組んでいる。私が常々意識しているのは、地方創生を実現するにはターゲットを絞り込み、具体的に目に見える変化と成果を出し続けていかねばならないということである。特に観光・農業・まちづくりの3つは、地方創生のポイントとなる分野である。
このなかでも観光産業は裾野が広く、老若男女が参画でき、交流人口拡大というかたちで地域経済を元気づけることができる、わが国経済の成長ドライバーになり得る産業である。しかし、観光産業のプレーヤーには旅館・土産物屋・飲食店など地域の中堅企業が多く、IoT投資がなかなか進まないなど、生産性の向上が産業全体の課題となっている。
これを解決するため、交通以外に宿泊や土産物などをもプラットフォームに組み入れた「観光型MaaS(Mobility as a Service)」を構築し、多くの地元企業に参入してもらうことで、情報検索・予約・決済機能を広く提供し、旅行者の利便性とともに観光産業の生産性を飛躍的に向上させることができる。地域の関係者が一丸となりSociety 5.0を社会実装することで、観光を地域経済の基幹産業に育てていくことができるだろう。
こうした取り組みで何よりも大切なのは、未来を切り拓く強い意志と熱意を持った人材を、自治体・企業・大学が連携して育成、定着させていくことである。地域を担う人材の育成が、Society 5.0の実現に向けた各種社会的課題解決の取り組みの社会実装へとつながり、ひいては、地方と日本を元気にする原動力となるだろう。