木村 康(経団連副会長、環境安全委員長(当時)/JXTGホールディングス会長)
資源の乏しい島国である日本にとって、エネルギーを資源国から安定した価格で安定的に調達できることが、企業活動だけでなく、国民生活を営むうえで大前提となる。経済界の自主的取り組みが続けられていることなどにより、日本産業のエネルギー効率は国際的に高い水準にある。こうした事実や取り組みをアピールして、日本が低炭素化に後ろ向きではないということを示していく「したたかさ」が必要だ。
水本伸子(IHI常務執行役員高度情報マネジメント統括本部長)
政府のエネルギーミックスの議論に倣って、各企業は自社のエネルギーミックス戦略を立てる必要がある。当社も、長期的には脱炭素化を目指しているが、エネルギーに関しては技術開発から製品になるまでのタイムスパンが長い。現在のエネルギーを安定的に供給する役割を果たしていくと同時に、脱炭素化のシナリオをつくっていかなければならない。原子力は、技術開発、人材の確保、投資の継続といった部分で、さまざまな懸念が出てきている。このままでは既存の設備を維持する力も衰えてしまう。脱炭素化社会に向けた取り組みを進める一方で、原子力発電や石炭火力発電を産業として維持することを、国として明確に意思表示していただきたい。
進藤孝生(経団連副会長/新日鐵住金社長)
安価で安定的なエネルギーの供給は、多くの産業にとって事業活動を行ううえでの基本要件であり、国際競争を考えるならば「イコールフッティング」が重要となる。エネルギー政策の検討にあたっては、日本の持つ特殊性や産業に与える影響を十分勘案する必要があるだろう。現在の鉄鋼製造技術を前提とするならば、世界が豊かになるなかで、2050年には1.5倍のCO2が排出されることになる。豊かさと環境の両立を図るには、大きな技術のブレークスルーが不可欠であり、日本の技術力に期待されるところは大きい。
豊田正和(日本エネルギー経済研究所理事長)
今は地政学的に予測困難な時代に入っている。エネルギーに関しては、中東、ロシア、中国の3つの国・地域の動向が鍵を握る。これらの国・地域の安定化に向けて、日本は、経済外交を通じて積極的にかかわっていくべきである。エネルギー政策の根幹である「S+3E」のうち、日本が最も脆弱なのはエネルギー安全保障である。2030年、2050年のベストミックス実現、とりわけ2050年に80%の温室効果ガス削減を目指すことも踏まえると、原子力は欠かすことができない。そのためには、「国民の理解」と「規制の最適化」が鍵となるだろう。
根本勝則(司会:経団連専務理事)
- ■ エネルギー・環境問題をめぐる世界情勢と日本
- 中東、ロシア、中国―地政学的に予測困難な時代
- 「脱炭素化の潮流」に対する懸念
- 日本の特殊性を踏まえたエネルギー政策が必要
- 企業としてのエネルギーミックス戦略が求められる
- 日本のエネルギー政策は正念場を迎えている
- ■ エネルギーミックス実現等に向けた足元のエネルギー政策
- 日本なりのベストミックスを追求すべき
- 震災後の電気料金上昇が産業に与えたダメージ
- 原子力は「国民の理解」と「規制の最適化」が鍵
- 国は原子力を産業として維持していく明確な意思表示を
- 石油危機が起きた場合のインパクト
- ■ 長期エネルギー・温暖化戦略のあり方
- 現在の政策継続では、2050年までにCO2を減らすことはできない
- 経団連が考える「ネガ・エミッション」
- 低炭素・脱炭素化に向けた「イノベーションの芽」
- 豊かさと環境の両立には技術のブレークスルーが不可欠
- 再生可能エネルギーの主力電源化は可能か