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月刊 経団連  巻頭言 さようなら、ワークシェアリング

工藤泰三 (くどう やすみ) 経団連副会長/日本郵船会長

ワークシェアリングは、1980年代のオランダでの事例が知られている。失業率が高まるなかで、パートタイムとフルタイム労働者の均等処遇を導入しつつ、柔軟な短時間勤務を実現することについて政労使で合意し(ワッセナー合意)、失業率の低下と景気回復を両立した。しかし、雇用の維持・拡大を優先したため実質賃金は低下し、生産性の向上には結び付かなかった。

当時の日本の失業率は欧州より低かったものの、企業内に余剰な人員を抱え、実質的なワークシェアリング状態だった。それを裏付けるように、石油ショック後の日本の有効求人倍率を見ると、1倍を超えたのは1990年前後のバブル景気のころと2007年ごろのリーマンショック前、そして人口減少局面に入った2014年以降現在に至るまでのわずか3回しかなく、ほとんどの期間は1倍に満たなかった。

1980年代以降急速に円高が進行するなかで、製造業が日本から海外へ大規模に移転したことに伴い、雇用を吸収してきたのは、比較的賃金が低く諸外国より生産性に劣るサービス業などであった。同時に有期契約や派遣労働者の比率が上昇した。人手は余っていたのである。

物流の現場を見ると、これまでいかに非効率な人材の使い方をしてきたかがわかる。工場や倉庫では、貨物をパレットに載せて運んでくるのに、いざトラックに積載する段になると、積載効率の低下やパレットの紛失を嫌い、パレットのまま積まずに、多くの場合、無償でドライバーに手荷役をさせる。その結果、荷役にかかる時間は4倍以上となり、トラックの回転率とドライバーの生産性は落ちる。

しかし、今や人口減少時代となり、人余りを前提とした仕事のやり方は成り立たなくなった。ワークシェアリングの発想から脱し、生産性を高める好機到来である。

人口減少はこれから本格化する。2040年には、生産年齢人口は約2000万人減り現在の4分の3に縮小する一方、老齢人口は1割以上増える。女性や高齢者の労働参加率を高めることは必須だが、それだけでは追いつかない。技術革新は雇用を奪う懸念もあるが、生産性を向上させれば、これを逆手に取れる可能性が日本にはある。イノベーションを大胆に活用し、積極的な投資と教育訓練によって労働生産性を高めることは待ったなしである。

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