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月刊 経団連  巻頭言 中長期の産業競争力の強化に向けて

佐々木則夫 (ささき のりお) 経団連副会長/東芝副会長

日本経済はデフレ脱却に向かいつつあるが、競争力を取り戻し本格的な成長軌道に回帰するためには、まだまだ課題は多く残されている。短期的には、安価で安定的なエネルギーの確保や、新ビジネス創出のための規制改革といった課題であるが、中長期的に取り組まなければならないのが人口減少への対応である。

厚生労働省の人口動態統計によれば、2013年の出生数は103万1000人で過去最少、人口の自然減は7年連続となり、24万4000人減で過去最大となった。合計特殊出生率は2005年の1.26以降、上向きに転じているものの、少子高齢化と人口減少というトレンドは変わらない。これによって引き起こされる労働力の減少や市場の縮小は、経済成長を阻害する要因であり、中長期の視点で考えるとき、人口問題への対応は不可避の課題となるのである。

当面の労働力不足に対しては、多様な人材の活用とそれを可能にするフレキシブルな働き方を実現することが求められる。さらに、女性や高齢者、外国籍人材といった異なる背景、価値観を持った人々を組織に取り込んでいくことで、ダイバーシティーをイノベーションにつなげていく取り組みも必要となろう。

縮小していく市場に対しては、それを上回る付加価値増大を実現し、国内市場を成長に導いていかなければならない。そのためには日本を「世界で一番企業が活動しやすい国」「新たな価値を創造する研究開発を世界で一番しやすい国」に変革していくことで、日本企業の投資回帰を実現するとともに、海外企業の直接投資を促進していく必要がある。

当然、人口減少を早期に食い止めるために、出生率そのものを向上させる取り組みも必要である。出生率を回復させたフランスの例なども参考にしつつ、減税等の優遇措置や保育施設の充実といった施策を、社会保障の効率化・重点化や財政健全化と両立させつつ、打ち出していかなければならない。

人口減少という危機のなか、今、われわれに求められているのは、個人が自分の能力を十分に発揮でき、企業が自らの価値を最大限に高めることができる環境を構築することで、今後の日本の持続的成長を確かなものにしていくことなのである。

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