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月刊 経団連  巻頭言 イノベーションの創出

川村 隆 (かわむら たかし) 経団連副会長/日立製作所会長

政府の役割とは何か。まずは、国民の生命と財産を守ることであろう。そのため政府は、安全保障を確固たるものとしつつ、警察、消防などの公共サービス、富の再分配のための税財政政策、安心・安全のための各種規制の企画・立案、運営を担う。

その意味で、国家の安定を脅かす危険性のある積年の懸案「1000兆円を超える公的債務」の解決を目指して税財政改革の第一歩を踏み出したことは、大きな意義が認められる。

債務の返済には原資が必要で、歳出削減や税収確保の工夫も必須だが、富をつくり出す源泉である民間の経済成長も重要な要素である。その観点から、民間セクターのイノベーションがどうしても必要とされてくる。

新たな経済成長のためには、アジアなど、新興国の需要増加に対応して日本でも開発や生産分担を行い、一方、世界に先駆けた高齢化社会が現実になってきた国内でも、新産業、例えばヘルスケア、介護、生涯学習、新観光、新エネ・省エネ、環境、新農林水産業などを創出する必要がある。このためには、技術のイノベーションが基礎になるが、これに加えて事業イノベーションも極めて大切になる。

技術開発・事業開発それぞれ、あるいはそれらの接続時にはいくつもの難所がある。その際、イノベーションのパワーを枯渇させずに拡大進展させていく原動力になり得るものの一つは、政府による大胆な規制改革である。通信・鉄道の規制緩和によるイノベーションが、わが国に大きな新需要・新産業を誕生させたことは、記憶に新しい。

もう一つの原動力は、異文化・異分野との遭遇である。グローバルなものにせよ産学官にせよ、異なる見方、考え方との出会いが大きなイノベーションにつながる例が多い。グローバルに進行中の産学官連携に対する期待は大きい。

民間セクターを、規制改革・グローバル化を基点として、六重苦、八重苦から解放することにより、イノベーション創出による経済成長を実現し、日本再生への力となりたいと願っている。

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