経済のグローバル化の進展に伴い、わが国の対外直接投資は拡大#1しており、海外在留邦人数もアジアを中心に増加#2している。このような状況の中、企業の国際的な事業活動を支える法的基盤整備の一環として、社会保障協定の締結を一層推進し、社会保険料の二重負担や掛け捨ての問題を解消することが人的交流や経済交流の更なる促進という観点から重要である。
わが国の社会保障協定については、従来、欧米先進国を中心に整備が進められてきたが#3、今後は、世界の工場さらには消費市場として多くの企業を惹きつけるアジアを中心とする新興国との協定締結が重要な課題となっている。これら諸国の多くにおいては、従来、社会保障制度が未成熟あるいは外国人には適用されてこなかったが、経済の発展に伴い制度整備が進んだ結果、上記二重負担等の問題が生じつつある。
われわれ3団体は、これまで2002年、2006年の二度にわたり共同して社会保障協定の締結推進を求めてきたが、このような状況変化に鑑み、改めて下記のとおり要望するものである。
現在政府間交渉・協議中の欧州5カ国#4との協定締結を着実に進めるとともに、協議・交渉入りを視野に意見交換等を進めているフィリピン、インド、中国のアジア3カ国、さらには既に申入れ等が寄せられている諸国#5との間で速やかに交渉を開始し、早期締結を目指すべきである。
とりわけ中国については、外国人に対しても適用されることが明記された社会保険法が7月に施行される予定であり、それによって日系企業の駐在員等に新たに社会保険料の負担が生じる可能性が高い。中国は米国に次いで長期滞在者#6が多いことから、わが国企業の負担もかなりの金額に及ぶものと想定される#7。経団連の「わが国の通商戦略に関する提言」(2011年4月)においても言及しているとおり、適用猶予等の十分な経過措置が講じられるよう中国側に働きかけるとともに、速やかに協定交渉を開始し、早期締結を目指すべきである。
一方、社会保障協定の下では、当初から5年超または期間を定めない派遣が見込まれる者や原則5年#8の一時派遣期間を超えた者については、相手国の年金制度にのみ加入することになっている。このため、長期の海外勤務者にとっては、将来の年金額が少額となるなど日本の厚生年金保険に継続加入した場合と同等の保障が受けられない恐れがある#9。特に今後協定を締結することになる新興国や途上国においては、社会保障制度が未だ発展途上にあり、為替相場の変動等のリスクも欧米先進国に比べて一般的に高いと考えられることから、適材適所の人員配置など企業の経営戦略に支障が及ぶことも懸念される。
そこで、長期の海外勤務者に対する特例である厚生年金任意加入制度#10の対象を英国との協定以外の既存の協定ならびに今後締結する協定にも拡大すべきである。また、併せて、企業年金についても、厚生年金任意加入制度の下で、海外勤務者の加入資格を継続できるようにする必要がある。