月刊・経済Trend 2011年12月号別冊 寄稿〜産業界の取り組み

観光元気に! 観光元気に!

高橋宏明
(たかはし ひろあき)

東北観光推進機構会長(東北電力会長)

東日本大震災が東北の観光に及ぼした影響は甚大である。3月、4月は個人・団体宿泊予約の90%がキャンセルされた。3月から5月までの東北6県の旅館・ホテル1施設当たり売上高は、前年の半分以下である(49.8%。全国は72%)。しかも、6県で最も売上高が落ちたのは、地震の直接被害が小さかった秋田県である(前年の33%)。東北の観光はまさに危機的状況に陥った。

観光を復活させ、観光振興による東北の活性化をぜひとも成し遂げたいというのが、私ども観光に携わるすべての者達に共通の思いとなっている。

東北観光復興WGの設置と活動

そこで、これからの東北の観光戦略について、官民一体で推進している「東北観光推進機構」(以下「機構」)の動きを中心にご紹介したい。

大震災から18日後の3月29日、機構は東北運輸局、東北経済連合会、JR東日本、日本観光振興協会、仙台商工会議所など観光関係者とともに『東北観光復興WG』(事務局:機構)を立ち上げた。

復興WGでは、3つの戦略、「正しい情報発信」「旅行機運の醸成」「誘客・創客支援」を策定し、「みんなと共に がんばろう!東北」をスローガンに、観光で東北を元気にする活動を開始した。

各メンバーが最新の情報を持ち寄り、いま出来ること、いますぐやるべきことは何かを議論し意見を集約して、実現に取り組んだ。復興WGは7月まで週1回開催し、現在も隔週ペースで開催している。

東北のゴールデンウィークは桜の見頃と重なり、多くの観光客で賑わう季節である。しかし、全国的な自粛・出控えムードと原発事故による風評被害の影響で、今年の入込客数は低調であった。そこで復興WGでは“夏祭り期間”を観光復興のターゲットに定め、3つの戦略に応じた施策を推進することにした。

東北の観光の正確な情報を発信するため、4月下旬に「東北観光復興ポータルサイト」を立ち上げ、英語、中国語、韓国語に翻訳して海外からのアクセスにも対応した。

風評被害は特にインバウンド(海外からの誘客)で大きい。全国の訪日外国人旅行者数は、4月は前年比62%減、5月は50%減、6月は36%減である。特に東北への旅行者は、数が大幅に減っただけでなく、観光目的の割合が昨年の36%から今年は10%に低下している。

機構では積極的に職員を海外に派遣して、海外のエージェントに東北の現状を説明した。また、一般観光客向けには各国の旅行博に出展して、元気な東北、安全な東北の紹介に努めた。9月までの5か月間に職員が訪問した国や地域は、台湾、上海、豪州、香港、シンガポールなど10を数える。

また、海外からテレビや新聞などのマスコミ関係者を招き、観光地を職員が一緒に回って安全な東北を体感してもらい、帰国後に自国で情報発信してもらう招聘事業も行っている。

東北へ行くことこそがボランティア

東北は地震や津波の被害を受けたが、松島を始め主な観光地は大きな被災を免れ、また多くの旅館・ホテルが現在は平常通り営業している。そのことは、観光庁の強力なアピールやマスコミの積極的な報道等もあって、広く知られるようになった。

さらに機構では「東北に来て、地元の人と話をして、美味しいものを食べて、産品を買って、温泉地に泊まっていただくことが、東北を助けることになる」ことを訴えることにした。

また、6月下旬には、岩手県平泉が念願のユネスコ世界文化遺産に登録された。東北が全国で唯一、自然遺産(白神山地)と文化遺産を有する地域となったことは、観光関係者の大きな励みになるとともに、観光の復興へ確かな追い風となっている。

心強い応援に感謝、これからも一層の応援を

観光復興の最初の勝負どころは、東北の6大夏祭り(※脚注)期間に、どれだけの人に来ていただけたかである。

入込客数の大幅な落ち込みが懸念されたが、結果は昨年と比較して9%減で踏み止まった。しかも昨年が天候および曜日の関係で、過去最高を記録したことを考えれば、今年は大健闘したと言えるのではないか。

ところで、史上初めてこの6大祭りが、各地での開催前の7月に「東北六魂祭」として仙台で一堂に会した。仙台の中心部は、街にも道路にも人が溢れ、収容しきれないほど沢山の見物人が集まった。そして「この東北の祭りをきっかけに、東北みんなで頑張るぞ!」の気迫に満ち満ちていた。

夏祭り期間には、シンガポールの大学生100名が「シンガポール東北親善大使」として東北を訪れ、夏祭りへの参加や被災地でのボランティアなど多彩なプログラムを体験した。

8月下旬には中国のJTB新紀元国際旅行社が「東北復興応援考察団」を企画し、同国の旅行会社役員やメディア等80名が東北各県を周遊した。

このように「東北へ旅行に行くことが東北を助ける」という機運が次第に国内だけでなく海外にも浸透して、大勢の方達が応援してくださっている。また国内の観光産業の方々も全力でバックアップくださっている。そのことに、心から感謝申し上げたい。

東北はまもなく紅葉のシーズンを迎える。東北は南北に長いため、紅葉前線がゆっくりと南下し、山里を鮮やかに彩っていく。空気は澄み、自然と対話をする絶好のシーズンがやってくる。そして次にやってくる冬は、雪が舞い、静寂なモノトーンの世界に包まれる。四季のはっきりとした変化が、東北の大きな魅力の一つである。

私どもは国内からも海外からも、1人でも多くの人に東北を訪れていただけるように、また、いつ訪れてもきっと満足していただけるように、これからも尽力していきたい。そして、どうぞ皆さまのお越しも心からお待ち申し上げる次第である。

(9月27日記)

(※脚注) 青森 ねぶた、岩手 さんさ踊り、秋田 竿燈まつり、仙台 七夕まつり、山形 花笠まつり、福島 わらじまつり


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