月刊・経済Trend 2011年12月号別冊 寄稿〜震災後、企業はどう取り組んだか

東日本旅客鉄道

取締役総合企画本部経営企画部長
高橋 眞
(たかはし まこと)

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、当社の営業エリアである東北・関東地方に未曾有の被害をもたらした。阪神・淡路大震災以降、地道に取り組んできた耐震補強工事、新幹線早期地震検知システム等の地震対策が功を奏し、ご利用のお客さまに死傷者がなかったことは不幸中の幸いであった。一方、鉄道施設については、前述の耐震補強工事の効果により高架橋柱の倒壊などは防ぐことができたものの、広範囲にわたり甚大な被害を受けた。また、その後も4月7日深夜の最大震度6強を観測した非常に大きな余震などの影響を受け、被災エリアの新幹線や在来線は長期間の運転休止を余儀なくされた。しかしながら、JR各社をはじめとした全国各地の鉄道事業者や関係の工事会社などの多大なるご支援のもと、点検・復旧作業を鋭意進め、復旧可能な区間から順次運転を再開した。

本稿では、当社の東日本大震災による被害状況と復旧・復興の取り組みについて報告する。

<東北新幹線の地上設備の主な被害と復旧>
【天井材の落下(仙台駅ホーム)】

復旧前

復旧後(4/10施工完了)
【電化柱の折損(仙台〜新幹線総合車両センター間)】

復旧前

復旧後(4/14施工完了)
【軌道の変位(仙台駅構内)】

復旧前

復旧後(3/22施工完了)
<在来線の地上設備の主な被害と復旧>
【盛土流失(飯山線 横倉〜森宮野原間)】

復旧前

復旧後(4/21施工完了)
【橋桁のずれ(鹿島線 延方〜鹿島神宮間)】

復旧前

復旧後(4/14施工完了)
【盛土流失(仙山線 作並〜八ツ森間)】

復旧前

復旧後(4/18施工完了)
【ホーム擁壁倒壊(常磐線 常陸多賀駅)】

復旧前

復旧後(4/1施工完了)
【切取崩壊(東北本線 豊原〜白坂間)】

復旧前

復旧後(4/1施工完了)
(注)日付は運転再開をするための復旧工事の施工完了日。 
施工完了後にさらに補強工事等を行っているところがある 

復旧工事を急ぎ半年で通常ダイヤとなった新幹線

東北新幹線については、電化柱や架線、高架橋柱などの地上設備において、約1,200箇所で被害を受けた。度重なる余震の中でも復旧工事を懸命に進め、大宮〜那須塩原間などで順次運転を再開するなど、4月7日時点で復旧工事が必要な被害箇所は約90箇所にまで減少した。しかし、4月7日深夜の余震等により、新たに約550箇所で被害を受け、那須塩原〜新青森間で再度運転を見合わせたが、東北新幹線は4月29日に全線で運転を再開することができた。運転再開後も徐行運転区間は残ったものの、その後の復旧作業の進捗に合わせて区間を縮小し、9月23日には全線で通常ダイヤでの運転を再開した。

今回の事態を検証し今後に活かす

−首都圏の在来線−

今回の震災は、在来線にも大きな被害をもたらした。被害箇所は、岩手・宮城・福島・茨城各県内の線区を中心に、約4,400箇所にのぼった。また、その後の度重なる余震により、さらに約850箇所で被害を受けたが、津波による甚大な被害を受けた太平洋沿岸の線区や福島第一原子力発電所周辺の区間を除き、4月末までに運転を再開した。

また震災当日は、首都圏の多くの地震計が運転中止の基準値の倍以上の数値を記録し、ほとんどの線区で徒歩巡回などによる設備点検が必要となった。運転再開までには長時間を要することが想定されたことから、当日中の運転中止を決めるとともに、夜を徹して損傷線区の復旧作業に取り組み、翌朝より順次、運転を再開した。しかしながら、結果的に多くのお客さまが帰宅困難な状況になってしまったことを重く受け止め、今回の震災発生以降の取り組みについて、発生直後の対応も含めて検証を行い、改善すべき点などを洗い出し、そこから得られた教訓を今後の災害対応等に活かしていく。具体的には、早期運転再開に向けた対応や、帰宅困難となったお客さまの一時滞在場所の確保、備蓄品の提供などの検討を進めている。

復興に向けた取り組みとして

−津波により甚大な被害を受けた太平洋沿岸線区の復旧−

津波に襲われた太平洋沿岸部については、市街地や集落などに壊滅的な被害が発生しているほか、鉄道施設に関しても、八戸線・山田線・大船渡線・気仙沼線・石巻線・仙石線・常磐線の7線区で、駅舎や線路等の流失・埋没などの深刻な被害が確認されている。こうした線区の復旧については、地域全体の復興やまちづくりの計画策定と一体となって進めていく考えである。現在、復興に向けて、各自治体において復興計画の策定が進められており、一部の自治体においては当社もその議論に参加しているほか、東北運輸局が呼びかけた線区ごとの復興調整会議において、関係自治体と情報交換を行っている。また、沿岸線区の復旧に向けては、用地の確保や財源スキームの策定などに係るご支援を仰ぐため、国土交通大臣などに要望書を提出している。

なお、復旧が可能な線区については、順次復旧作業を行い、常磐線や仙石線などの一部区間で運転を再開したほか、八戸線についても2012年度初の全線での運転再開に向けて準備を進めている。

−不可欠な観光の活性化−

東北をはじめとした東日本エリアの観光地を元気にするとともに、復興支援・お見舞い・帰省などの様々な移動をサポートすることを目的として、「JR東日本パス」などの企画乗車券を発売した。

また、「青森から、東北を元気にしたい」「観光の力で、日本を明るくしたい」という思いをこめて、青森県、青森県観光連盟、青森県に隣接する秋田県五市町(大館市、能代市、八峰町、小坂町、藤里町)の各自治体および関係事業者と連携し、「青森デスティネーションキャンペーン」を4月23日から7月22日まで開催した。これに引き続き、鉄道の旅を通して東北と日本を元気にしたいという思いを込めて、「つなげよう、日本。〜旅する笑顔を東北の力に〜」キャンペーンをJRグループで9月末まで実施し、東北各県の観光地を全国へPRした。

−産直市などを開催し被災地の復興を支援−

震災による被害や風評被害に加え、観光産業への打撃などを受けながらも、避難者の受け入れなどに貢献している東日本エリアの各県・地域を応援する産直市を、上野駅など東京地区および地方の主要駅、駅ビルなどで開催している。また、駅のコンビニ「NEWDAYS」の首都圏主要店舗においては、被災地を応援するため、東北地方の産品を利用した商品等の販売を行っている。このほか、被災された方々向けの住居等の提供、採用枠の拡大、義援金の拠出など、さまざまな復興支援の取り組みを実施した。今後も、東日本エリアを事業基盤とする企業グループとしての社会的使命を果たすために、震災からの復興に向けて可能な限りの貢献を行っていきたい。

当社を取り巻く経営環境は、復興の兆しは見えるものの、依然福島第一原子力発電所事故や電力不足問題など不透明な要素が多く、当面は厳しい状況が続くことが予想される。当社は間もなく会社発足から四半世紀を迎えるが、環境変化に即応したたゆまぬ経営革新に取り組み、これからも永続的に安全で安心なサービスをお客さまに提供してまいる所存である。

(9月27日記)

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