常務取締役 技術企画部門長 片山泰祥 (かたやま やすよし) |
東日本大震災では、世界観測史上4番目の超巨大地震や大津波による通信設備の損壊、大規模停電による通信設備の機能停止など、これまでに類を見ない被害が発生した。本稿では、NTTグループの震災への対応状況を振り返るとともに、今後の災害対策への取り組みについて紹介する。
通信設備の被災状況については、通信建物の損壊(全壊:18ビル、浸水:23ビル)、電柱の倒壊(約6.5万本)、通信ケーブルの断裂(中継伝送路:90ルート、架空ケーブル:約6,300km、国際海底ケーブル:4ケーブル)、携帯電話基地局の損壊(復旧対象局:375局)等が発生した。また広域かつ長時間の停電により、バッテリーの枯渇や非常用発電エンジンの燃料枯渇が発生し、通信設備に電源供給できない事態となった。結果として、約150万回線の固定系サービス、約6,700の移動無線局、約15,000回線の企業向けデータ通信サービス等でサービス中断を余儀なくされた。
通信ビルの被災状況(NTT鵜住居局(岩手県)外観) |
NTT鵜住居局内部 |
NTTグループでは、全国からの支援を含め1万人を超える体制で復旧作業に総力を挙げて取り組んできた。「福島第一原発周辺や道路・トンネル等の損壊により復旧作業が困難な地域を除き、4月末を目途に通信設備の復旧を図る」という目標を立て、通信ビルの修復、通信設備の新設・更改、通信ケーブルの張り替え、応急光ケーブル敷設や衛星・無線を活用した基地局への中継伝送路の修復、1局で複数局をカバーする大ゾーン方式による携帯電話のエリア救済等、さまざまな対処を実施した。その結果、お客様が居住しているエリアの通信ビル・基地局の復旧は、4月末時点でほぼ完了した。お客様が居住困難なエリアについては、道路等の他のインフラの回復と同調して復旧作業を進めている。復旧時期未定としていた福島第一原発周辺については、半径10km地点にある通信ビルの機能復旧や25km地点での高性能アンテナ設置等を実施した結果、お客様居住エリア及び原発作業エリアの通信を復旧させることができた。
防護服を着用の上、復旧作業を実施 (磐城富岡局) |
高性能アンテナ取り付けの様子 (いわき市内基地局) |
復旧とあわせ、被災地域支援の取り組みも積極的に実施してきた。移動基地局車の配置、衛星携帯電話の貸与、特設公衆電話の設置、避難所での無料インターネットコーナーの設置に加え、災害用伝言サービスを運用し、被災された方々の通信手段の確保を図った。また、行政機関等への被災前後の地図情報や航空写真の提供、テレビ電話を使った遠隔医療相談、学校と保護者間での一斉連絡システムの提供、セブン&アイ様との連携による仮設住宅でのネットショッピング環境の整備など、ICTを使ったさまざまな支援にも取り組んでいる。さらに生活支援として住環境確保のための社宅提供や仮設住宅等への電話機の無償貸与、被災地における採用の追加募集などを実施してきた。
これまでも阪神大震災等の経験を踏まえて、災害に強い設備構築とサービス提供に向けて取り組んできたが、東日本大震災では津波の規模が想定を超えていたことに加え、大規模停電により通信設備が機能停止する等、被害が甚大となった。また、携帯電話やインターネットの普及に伴い被災時の情報連絡手段の多様化が顕著に見られた。これらを教訓に、今後の災害対策について検討を進めている。
まずは、災害に強く、万一被災しても迅速に復旧可能な通信ネットワークを構築することが肝要と考え、ネットワークの重要機能の地域分散や中継伝送路の多ルート化、通信ビルの防水対策強化、大ゾーン方式基地局の人口密集地への追加設置、大規模停電に備えた基地局への自家発電機設置による無停電化やバッテリー容量24時間化、即時性・機動性に優れる衛星・無線の活用推進等について検討し、一部については既に着手している。
被災後の情報連絡手段の確保も大切であり、検討を進めている。例えば、コンビニ店舗内に特設公衆電話を設置するとともに無線LAN環境を整備しておき、被災時には「情報ステーション」として無料開放する取り組みを、セブン&アイ様との協業により推進している。被災直後に多くの音声発信が集中し電話が繋がりにくくなる問題については、お客様の音声メッセージをファイル化し、電話網とは別のデータ転送ネットワークでメッセージを届ける仕組みを検討している。また、情報連絡手段の多様化に対応するため、安否確認サービスや復旧エリアマップの拡充、エリアメールの更なる活用、SNSと連携した情報提供等に取り組んでいる。
災害時や復興時に役立つサービス・ソリューションとして、自治体支援、教育支援、遠隔医療、防災等、様々なシーンでのICT利活用についても検討を進め、今後、積極的に展開していきたいと考えている。
今回の大震災はまさに未曾有のものであったが、この災害への対応を通して改めて通信の重要性、「つなぐ」という意味の大きさ、われわれの責務の重大さを痛感しており、日本再生に向け、今後とも精力的に取り組んでいきたい。