月刊・経済Trend 2011年12月号別冊 寄稿〜震災後、企業はどう取り組んだか

太平洋セメント

取締役専務執行役員
福島秀男
(ふくしま ひでお)

今回の東日本大震災において、当社では幸い従業員は全員無事で、被災地の関係会社・協力会社の従業員も全員無事であった。

一方、東日本の広範な地域で施設・設備に被害が生じたが、特に東北地区太平洋沿岸の工場や物流基地(サービスステーション)の施設・設備が、津波による冠水で甚大な被害を受けた。とりわけ大船渡工場(岩手県大船渡市)は損傷がひどく、操業停止を余儀なくされた。9月末現在も一部設備の操業にとどまり、セメント生産の再開に向けて精力的に復旧作業に当たっている。本稿では同工場の復旧経過を中心に記す。

大船渡工場の被害と復旧

(1)大船渡工場の被害状況

大船渡工場は、岩手県南部の南三陸沿岸に位置し、大船渡湾最奥部の海岸に面している。同工場は当社グループ唯一の東北地区の工場である。1号と5号の2本のセメント生産ライン(キルン=回転窯)を持ち、生産能力は約180万トン/年で、これは当社の国内生産能力の約1割に相当する。

大地震直後に最大10mに達する津波の直撃を受け、工場設備の大部分が冠水・損傷するなど甚大な被害が発生した。2本の生産ラインのうち、海岸に近い1号系統のエリアには受変電設備、原燃料受入設備、出荷設備、製品サイロなど工場運営の基礎インフラ設備が集中しており、全域が津波で冠水した。一方、高台にある5号系統エリアは、辛うじて浸水を免れた。

危機的状況の最中で、伝承されてきた1960年のチリ津波の経験が生き、工場従事者全員が万全の避難行動をとり、人的被害が無かったことは、何にも増して幸いであった。

(2)復旧の経過と災害廃棄物処理

被災後間もなく、従業員は衣食住の不足など困難を抱えた状況にあったが、早期の操業開始に備えて工場内のがれき撤去や設備の点検に努めた。

当地域の復興に向けて、がれきの処理は環境・衛生面からも急務であったことから、第一目標を災害廃棄物の焼却処理とし、被災を免れた5号キルンでの焼却運転に必要な設備について、大至急の整備を行った。

5月9日に高圧電力が復電し、5月17日〜22日までの間、工場内のがれきを焼却して試運転を行い、本格的な処理開始に備えた。

同キルンでは超高温での焼却が可能で、ダイオキシンの発生を抑制し、安全かつ大量に処理できる。セメント生産目的以外での同キルン操業は過去に例がなかったが、適正処理を実現するため、受入処理設備を改造するなど諸施策を実施した。

6月22日には、大船渡市のがれきを受け入れ、焼却処理を開始した。また、翌23日からは陸前高田市の魚類廃棄物も受入・処理している。


大船渡5号キルン

現在5号キルンでは当初計画した日量300トンのがれき焼却を実施している。

11月からは5号キルンでセメントの生産を再開する予定である。これに伴いがれきはセメントの原燃料としてリサイクル処理され、復興に役立てられることになる。さらに1号キルンも復旧を急ぎ、12月からがれき等の焼却を開始する予定である。これらを合わせて今後2014年3月末までに80万トンの災害廃棄物を処理する計画である。

復興に向けた展望とセメント産業の使命

津波被害を受けた東北地区太平洋沿岸の物流基地も9月からすべて稼動し、さらに大船渡工場のセメント生産を再開することにより、今後本格化する東北での復興需要に万全の供給体制を築いていく。

また、今回の震災を契機に、セメント・コンクリートを使った土木・建築のあり方が、一層「安全」に焦点を合わせた形で見直されるものと想定している。これらのニーズを満たす各種製品・サービスの提供も大きな役割と認識している。

さらに、収束が待たれる原発事故に関連して、これまで培ってきた放射能関連の製品(低放射化コンクリート、放射線遮蔽用コンクリート、放射性廃棄物格納容器)や土壌の除染技術などを活用して、復興に貢献していきたいと考えている。

(9月26日記)

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