取締役常務執行役員 製造技術本部長 (くろさき たけし) |
2011年3月11日に発生した震災でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様に心からお見舞い申し上げたい。そして、被災地の早期の復興を祈念したい。
本震災により当社の仙台製油所(宮城県)は、製油所全体が津波により甚大な被害を受け、鹿島製油所(茨城県)も津波により桟橋が損壊するなどの被害を受けた。また油槽所やガソリンスタンドも被害を受けて、石油製品のサプライチェーンに重大な影響を及ぼすこととなった。
未曾有の事態に際し当社は様々な取り組みを行い、石油製品の安定供給という社会的責務を果たすべく尽力した。本稿では、その概要を紹介する。
地震発生後、直ちに本社対策本部を設置し被災製油所の従業員安否確認、被害状況の情報収集、所轄官庁への報告等を行うとともに、各所の実態に合わせ緊急供給対応を統括した。
またJXグループとして日本赤十字社を通じて被災地域へ義援金を寄付したほか、被災者の方々への物資提供、被災地支援活動を随時実施した。
一刻も早く石油製品をお届けするため、製油所では出荷機能の再開を最優先に取り組み、供給体制の早期復旧に努めた。
根岸製油所(神奈川県)では、3月14日よりタンク車、ローリー車で東日本地区へ製品供給を再開する一方、西日本地区製油所のトッパー能力を増強申請してフル生産を行い、西日本から東日本地区へのバックアップ体制を確立した。
鹿島製油所では3月18日よりローリー出荷を再開した。
仙台製油所では被災地域からの要請に基づき3月18日から所内在庫の灯油、軽油をドラム缶で約1000本分を宮城、福島、岩手各県へ寄贈し、また3月21日よりローリー車で地域ガソリンスタンドへの応急出荷を行った。さらに遊休の油槽所設備(長野県松本市、埼玉県朝霞市)の移設利用による暫定のローリー出荷設備を新設し、5月3日には震災前の5割程度まで供給能力を復旧した。
地震により一部の製油装置で損傷(写真-1)が発生したものの、全体として地震による被害は比較的軽度であった。
しかし、津波により製油所全体が最大深さ3.5m程度浸水し、出荷地区では津波の引き波によりローリー出荷設備が倒壊し、火災が発生(写真-2)したほか、近隣の出荷用タンク群も延焼した。
また製油装置地区でも津波により護岸道路の陥没・タンク基礎および付属配管の損傷等甚大な被害を受けたほか、計器室および電気室内の制御システムや電気設備が冠水により更新を余儀なくされた。
写真-1:反応塔基礎座屈状況 |
写真-2:ローリー出荷設備被災状況 |
地震によりLPG球形タンクの支柱の一部に損傷などが見られたが、被害は軽度であった。しかし津波により原油桟橋等の桟橋設備が損傷したほか、桟橋護岸が崩落し、原油受入・製品出荷機能が損なわれた(写真-3,4)。なお、製油設備・貯蔵タンクは津波の被害を免れた。
写真-3:原油桟橋損壊状況 |
写真-4:南水路桟橋護岸崩落状況 |
以上の通り、両製油所とも津波による被害はあったが、地震による被害は比較的軽度であり、当社の設備は相応の耐震性能を備えていたものと評価している。
社長を本部長とし、その配下に5つの復旧ユニットを配置し、被災製油所・油槽所等の復旧に向けた体制を構築した。特に製油所復旧に向けては、震災直後から仙台・鹿島にエンジニアを応援派遣することとし、被害状況の調査・設備点検・復旧作業を支援した。
鹿島製油所は、このような全社一丸となった体制のもと、6月4日に生産を再開した。
復旧に先立ち、所内に散乱していた被災車両、瓦礫類等は宮城県・仙台市・自衛隊等を始めとする関係各官庁のご指導・ご支援を頂き速やかに処分することができた。
また、震災で途絶した用役についても、関係官庁のご協力を得て電気(建屋用電力のみ、本格受電は10月末)、蒸気を本年6月末までに、工業用水・飲料水についても順次復旧し、本格的な製油所復興への体制を整えることができた。
製油所復興は以下に配慮しつつ、2012年3月末の生産再開を目標に取り組み中である。
今回の震災を踏まえて、有事における製油所員の行動基準の見直し等のソフト面に加え、設備対応についても検討を行っているが、特に震災への備え・非常時の情報伝達の重要性を痛感した。今後必要な施策を速やかに実施してゆきたい。
製油所復興に際し、関係官庁・自衛隊・周辺住民の皆様を始め、多くの関係者に絶大なご協力を頂いた。改めて感謝申し上げる。