常務取締役岩手工場長 田ノ上直人 (たのうえ なおと) |
被災直後の工場内の様子 |
3月11日、私は車の製造・販売会社で構成された桐友会という会合に出席するため盛岡市内のホテルにいた。大きな揺れを感じ慌てて外へ避難した。会合の中止を決め一路工場へと車を走らせた。車中、工場と連絡が取れ、幸いにも被災者がいないことを聞き、やっと落ち着きを取り戻せた。
工場へ到着すると基幹職を中心に被災状況の把握や従業員の家族の安否確認が既に開始されていた。過去の地震の経験により、全ての従業員が役割を認識し、てきぱきと動いていたことに感動すら覚えた。翌日には静岡から支援部隊が駆けつけてくれ、復旧作業は加速され、16日には生産できる準備を整えることができた。
過去の経験が人を育て、その経験が会社の財産になっていることをうれしく思った。
ただし、全てが上手くいったわけではない。今回の震災ではライフラインが寸断された。当社の岩手工場では、コジェネレーションシステムにより自家発電を行っているにもかかわらず、今回の震災では準備不足のため発電を行うことができなかった。そこで震災後、あえて停電状態にして、安全に発電できることを準備の上、トライアルを行い、確認していった。さらに、地域への送電についても関係機関との検討を開始した。緊急時に当社が発電した電力を地域の皆様に少しでも役立てていただけるよう取り組んでいこうと考え、検討を進めているところである。
また、震災時より継続している被災地での瓦礫撤去等、当社ができる支援活動を今後もトヨタ自動車、またグループ各社と連携し継続していく。今回の経験を次への備えとして学び、世界一安全で安心な工場づくりを進めていく所存である。
当社は、トヨタグループの一員でトヨタ車の開発・製造を行っている。トヨタ自動車の豊田章男社長が被災地をお見舞いされ、岩手工場にお越しになり激励をいただいた。さらに、海外のトヨタ車販売会社からも激励のメッセージを頂戴するなど、多くの皆様からの暖かい励ましに助けられた。
7月には豊田章男社長が仙台で継続的な被災地支援活動「ココロハコブプロジェクト」として、東北におけるトヨタの取り組みを発表された。そのなかで、「モノづくりを通じて、地域の人たちと一緒に東北の未来をつくる」とし、東北を中部、九州に次ぐ、第3のモノづくり拠点と位置付けた。そして、コンパクトカーの開発から生産まで一貫して行うこと、東北でスモールハイブリッド車の生産を行うこと、等を公表された。
当社はこのプロジェクトを担う企業の一つとして次のような取り組みを推進していく。まず、前述のスモールハイブリッド車の生産準備を従来にないスムーズさでしっかりと行う。「ココロハコブプロジェクト」が発足後、初となる東北発のこの車両を、復興のシンボルとすべく高品質につくり続けることである。
さらに、今までも進めてはきていたものの、あらためて地域の企業の皆様とクルマづくりのための技術開発、競争力強化に向けた取り組みをより一層進めさせていただきたいと考えている。そしてこれらの取り組みこそが東北の復興へ繋がると信じている。
ボランティア活動中の社員 |
岩手工場では2007年より手づくりに拘った「森づくり」にも取り組んでいる。地域の皆様にも参画していただき、どんぐり拾いから苗木の育成、そして植樹を行っている。今年も皆様に少しでも元気そして癒しを感じていただきたいとの思いで6月に実施した。これからも地域の皆様と一緒に活動することを通し、絆を深めていきたい。
7月にニュースリリースされたセントラル自動車、トヨタ自動車東北、当社の3社統合は、仕事の領域を拡大し、東北の地でのモノづくり強化の大きなチャンスである。東北全体が元気を取り戻し、未来をつくる子供たちに夢と希望を与えられるような会社にしていきたい。
東北、岩手県の一企業として、今もなお厳しい状況にある沿岸地域に対し、微力ではあるが、雇用の拡大、復興への支援等、できる限り尽力していきたい。
そして、トヨタ自動車とともに、東北の未来に、東北の笑顔に繋がることを信じ、地域の皆様と一緒に進んでいきたい。
あらためて東日本大震災において、犠牲になられた方々に謹んで哀悼の意を表したい。また現在もなお、大変困難な状況におられる被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復興を願っている。