月刊 経済Trend 2002年7月 創刊号 「志」を高く掲げ、新たな発展への道を切り拓く―活力と魅力あふれる日本を目指して― | |
日本経団連会長 奥田 碩 おくだ ひろし |
この度、経済団体連合会と日本経営者団体連盟が統合して、新たに日本経済団体連合会が発足した。これまで両団体が築いてきた貴重な資産を活かしつつ、「活力と魅力あふれる日本」を目指して、個人や企業が十分に活力を発揮できるような環境整備に努めることを新団体の使命とし、確信とスピード感を持ってその実現に全力で取り組んでいきたい。
二十世紀のわが国は、欧米へのキャッチアップを目指して、主に物質面での豊かさを追求してきた。それは国民の目標、価値観として共有され、その巨大なエネルギーが、高い経済成長と生活水準の向上を実現する原動力となった。しかし、もはやわが国は手本のない、自らが国のあり方を模索し、また新しい発展の道を見出さなければならない新たなステージに入っている。
私は、新しい経済・社会の発展の原動力として、物質面での豊かさに加え、精神面の豊かさを求めるエネルギーを位置づける必要があると考えている。これは、物質的な豊かさと精神的な豊かさを単純に対立させて論じようということではなく、また精神的な豊かさといっても、趣味の世界で心静かに過ごすというような、内向きで静的なものでもない。この精神的な豊かさとは、人々がそれぞれの多様な個性を生かし、自分らしく生きることを通じて得られる充実感ともいうべきものである。
もともと人間は多様な価値観を持っているが、二十世紀のわが国では、物質的な豊かさを追求するあまり、画一的な生き方を志向しすぎてきたきらいがある。二十一世紀は、精神的な豊かさを追求することを通じて、日本人をこれまでの画一的な生き方から解き放ち、さまざまなかたちで個の確立、自立を促す社会を築いていくことが求められる。それが、ひいては、経済的な豊かさの中にあっても、確固たるアイデンティティを持った精神をはぐくむことにつながる。
当然、企業のあり方も、より多様なものにしていく必要がある。個人や企業が、それぞれ多様な目標を持ち、その実現に向かって多様な活動を展開する、そのエネルギー、ダイナミズムこそが、新しい市場、技術、雇用を生み出し、新しい経済、社会の創造につながる。また、国際社会においても、多様性はますます重要な意味を持つことになろう。二十一世紀は、こうした多様な価値観、多様な社会体制を持つ国家が共存し、人権の確立、貧困の克服、地球環境問題の解決等の共通の課題に、それぞれの立場で取り組んでいく国際社会の構築を目指していく時代である。
そうした経済社会を目指す時、その土台として、国内においては国民の間に、また国際社会においては国家の間に、「共感と信頼」が満ちあふれている状況が必要となる。他者が自分と異なるものを求め、生きていることを理解し尊重する心、そうした「共感と信頼」が国民の間に形成されていなければならない。
同様に、わが国が真に開かれた国として、国際社会の中で生き、貢献していくためには、わが国自身が「共感と信頼」を寄せられる存在となることが重要である。
私は、この新しく生まれた日本経済団体連合会の会長として「多様な価値観が生むダイナミズムと創造」、そして、それを支える「共感と信頼」を基本的な理念として行動していきたい。わが国にとっての二十一世紀は、多様な価値観を育み発展させる「こころの世紀」にしなければならない。そして、それを担うのは、内外に開かれた、活力と魅力ある国を創りあげていこうという「志」である。
日本経済団体連合会は、そうした「志」を高く掲げ、新しい役員一同、そして事務局一同が心を合わせ、力を合わせて、日本の経済、社会が直面する諸課題を果敢に乗り越えていかねばならない。私どもは、政治の強力なリーダーシップにも期待しながら、新たな経済の発展への道を切り拓く先頭に立ちたい。